今年は、多くの横尾忠則氏の作品にお目にかかっている。

そして、最大規模の個展「GENKYO 横尾忠則[原郷から幻境へ、そして現況は?]」の会期が終わりそうだったので、慌てて行くことに。作品数 600点あまりと非常に多く、60年以上の制作活動の集大成とも言える個展。展覧会内の写真撮影不可の為、画像はフライヤー、TBA などから。

「T+Y自画像」2018 タイトル画にもなっているが、思った以上に大きな作品だった。
「T+Y自画像」2018
横尾忠則氏は、1936年兵庫県西脇市で生まれで現在85歳。3歳で父の兄の養子となる。呉服商の叔父夫婦は溺愛してくれ、年齢が非常に離れている為に彼らの死を恐れていた上、子供の頃に戦争を体験したことが現在も無意識下で影響を受けているとのこと。

24歳で上京し、グラフィックデザイナーとして活躍。60年代にポップアートとエロチシズムにあふれた作品を発表。1965年自分を題材に、1歳半の子供の時の写真と、29歳の絶頂で自殺する姿を一枚のポスターに。「TADANORI YOKOO」1965
「TADANORI YOKOO」1965
1967年、デザインの業界紙に自身の死亡通知を掲載し、始めての作品集には「遺作集」と名付けた。

「戦後」1985、フレームは原美術館 ARC などを設計した建築家の磯崎新氏によるもの(再制作)。
「戦後」1985、フレームは建築家の磯崎新によるもの(再制作

「薔薇の蕾と薔薇の関係」1988 木炭と油彩によるもので、重なるカンバス部分がぶつかって盛り上がっていた。
「薔薇の蕾と薔薇の関係」1988

80年代後半に滝の夢を見たことから、上記の東京大壁画も滝の集合だったように、生涯、滝をテーマとされている。
「集合と分散 その力の働き」 1991
「集合と分散 その力の働き」 1991

越境するグラフィック のエリア
越境するグラフィック

リメイクリモデル のエリア
リメイクリモデル

リメイクリモデル・

「Wの惑星」2005
「Wの惑星」2005

そして、滝のインスタレーション。滝の夢を見て以来、約1万枚の絵葉書を収集しておられたのだそうで、天井や壁にある鏡の効果も利用していて圧巻。
滝のインスタレーション 1999-2021

地球の中心への旅 のエリア
地球の中心への旅

「実験報告」1996 骸骨をさらう漁師など、さまざまな時間や空間を超えた物を集約している。
「実験報告」1996

死者の書 のエリア
「死者の書」

「死者の誕生」1997
「死者の誕生」1997

「星の子」1996 自宅の西脇から見た明石は、B29の爆撃で真っ赤に空が染まっており、その光景を見た10代までの自分が、無意識で今も自分を支配していると。
「星の子」1996

「懐かしい霊魂の会合」1998 若い頃の養父と、大人になった横尾氏が一緒にアイスクリームを食べていて、後ろには神戸の空襲の様子が描かれ、亡くなった人達と宇宙が広がる。死と生が同居して溶け合っているイメージが、描いてみたら出来ていたと。
「懐かしい霊魂の会合」1998

「トイレットペーパーと女」2017
「トイレットペーパーと女」2017

Y字路にて のエリア 子供の頃に通ったY字路の場所は、後に見ると見知らぬ景色となっていたとのこと。Y字路のモチーフは、150点以上に及ぶ。
Y字路にて

「暗夜光路 赤い闇から」2001
「暗夜光路 赤い闇から」2001

「如何に生きるか」2012 何を描くかではない、如何に描くかではない、如何に生きるか、と。
「如何に生きるか」2012

「想い出劇場」2007 横尾忠則氏が、山梨で食物アレルギーになって救急車で運ばれた後に描かれた。
「想い出劇場」2007

タマへのレクイエム のエリア
タマへのレクイエム

横尾によって裸にされたデュシャン、さえも のエリア
横尾によって裸にされたデュシャン、さえも

「愛のアラベスク」2012 クリムトの作品を思い出したのだが、良く良く見ると、ターバンをした黒い顔の人に抱かれている女性のようで、コロナ後にご自分の作品にマスクを付けた作品エリアでは、この作品の色々なバージョンを見ることが出来た。
「愛のアラベスク」2012

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終わりなき冒険 のエリアでは、城崎温泉の様子が多数。
「城崎幻想」2006
「城崎幻想」2006

「君のものは僕のもの、僕のものは僕のもの」2009 タイトルに惹かれた😂
「君のものは僕のもの、僕のものは僕のもの」2009

最後の原郷の森エリアでは、新作の数々がある。西部劇の音楽が高らかに流れており、部屋が黄色の絵画で覆われているようなイメージ。1年か1年半ぐらいの間に、新作として30点を描いたが、黄色はゴッホぐらいしか扱っておらず、難しい色だと思ったが、あえて難しいことをしてみようと思われたと。

下絵は描かず、直接イメージをカンバスに投影していく手法で、色は衝動で、塗る直前に決められるのだそう。絵を描くのはもう飽きたが、飽きた気分で描く絵はどういうものになるかと言う好奇心でまた描いていると。現在85歳だが、2015年に突発性難聴を発症し、殆ど耳が聞えない。また、手首は長年の蓄積から腱鞘炎になっており、昨今はただ筆をカンバスにたたきつけているだけで、痛さを利用して痛みと共有しているとのこと。

「高い買物」2020 輪郭がはっきりせず、色が混ざり合っている。聞えづらい耳をあえてスタイルにしている。
「高い買物」2020

「追憶あれこれ」2019
「追憶あれこれ」2019

「寒山拾得」2019 の連作 人物の輪郭がはっきりしないが、意図的に行われており、色彩は自由に使われている。子供は遊ぶために生まれて来たのだから、アーティストもそのような気分が必要と。それでも、絞首刑の縄のようなものが描かれている。。。
「寒山拾得2020」2019

「教理」2021
「教理」2021

生と死のサイクルなど、考えさせられるテーマが多い中、「二刀流」2018 なる作品があり、バッターとピッチャーの大谷選手がくるくると回転し続けているのには、ちょっとホッとさせられた。
「二刀流」2018

WITH CORONA (WITHOUT CORONA)
2020年5月に、横尾氏はご自分の作品や写真を中心にマスクをコラージュした「WITH CORONA」シリーズを発信し、2021年4月からは「WITHOUT CORONA」に名称を変更。この展覧会が開催され始めた7月で約700点にコラージュを施しておられ、それらの画像が撮影可能となっていた。前述の 21_21 DESIGN SIGHT での個展で発表されていたポートレートなどもある。
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前述の「懐かしい霊魂の会合」も。
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「Wの惑星」も。
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約600点もの作品が、これでもかと並ぶ展覧会には、ただただ圧倒させられた。

会場:東京都現代美術館
会期:7月17日~10月17日’21

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