3日間行われたシティオペラの OPERA-FOR-ALL FESTIVAL は、初日はガラコンサート、2日目は「ラ・ボエム」、3日目は「ドン・ジョヴァンニ」で、2日目と3日目はそれぞれプロデューサーや出演者のコメントをオペラの前にあらかじめ上演するなどのおまけつきで、全席25ドル。

知らなかったのだが、数々のブロードウェイミュージカルの演出を手がけた(「アイーダ」「オペラ座の怪人」など)ハロルド・プリンスが1976年からシティ・オペラのプロデュースを担当しており、この作品もその一つ。

1 2

Music by Wolfgang Amadeus Mozart
Libretto by Lerenzo Da Ponte
Conductor : David Wroe
Production : Harold Prince

Don Giovanni ドン・ジョヴァンニ(女たらしの貴族):Aaron St. Clair Nicholson(デビュー)
Leporello レポレッロ(ジョヴァンニの従者):Daniel Mobbs
Donna Anna ドンナ・アンナ(騎士長の娘でオッターヴィオの許嫁):Mardi Byers(デビュー)
Don Ottavio ドン・オッターヴィオ(アンナの許婚):Bruce Sledge
Donna Elvira ドンナ・エルヴィラ(ジョヴァンニに誘惑され捨てられた):Julianna Di Giacomo
Zerlina ツェルリーナ(村娘でマゼットの新婦):JiYoung Li(デビュー)
Masetto マゼット(ツェルリーナの新郎で農夫):Matthew Burns

内容が面白いだけに、特に第1幕は、1時間半という長さを感じさせなかった。
舞台がスペインだからか、ジョヴァンニの服装をしているレポレッロをジョヴァンニだと思っているエルヴィラが言い寄るシーンでは、顔をマントで隠しながら近付いて来るエルヴィラをあしらうレポレッロは、まるで闘牛を扱う闘牛士のよう。偶然だろうが、エルヴィラ役の Julianna Di Giacomo は、女性の中では群を抜いて巨漢だっただけに、笑えてしまった。

「フィガロの結婚」はウィーンではそれほど評判にならなかったが、プラハでは大ヒットし、その結果、翌シーズンのために新しい作品を依頼された結果できたのがこの作品で、第2幕目13場での晩餐会でのシーンでは「フィガロの結婚」の「もう飛ぶまいぞ、この蝶々」が使われているのも面白い。

ドン・ジョヴァンニ役の Aaron St. Clair Nicholson は、声やルックスは良いのかも知れないが、いかんせん声量が足らない。エルヴィラ役の Julianna Di Giacomo の方が遥かに立派な声量で上手く感じる。
ソプラノは3人居るので、自然と比較してしまうが、パンフレットにはアンナ役 Mardi Byers → エルヴィラ役 Julianna Di Giacomo → ツェルリーナ役 JiYoung Li の順。最後のカーテンコールでは、端役から先に挨拶に立つので、パンフレットの女性の順が逆になる。しかし拍手はというと、エルヴィラ役 Julianna Di Giacomo がダントツ。
一方男性歌手の場合も、タイトルロールのドン・ジョヴァンニ役 Aaron St. Clair Nicholson よりも、レポレッロ役 Daniel Mobbs への拍手ががぜん大きかった。
観客はしっかり評価しているかと。

受け売りの備忘録

・舞台設定が大航海時代であった17世紀のスペイン。若い男性が航海に出ていて、国に残った女性の比率が
 高かったという時代背景。
・ツエルリーナが第1幕9場でジョバンニと良い雰囲気になっているが、エルヴィラが仲に割って入る。その後、
 第1幕の宴会シーンでも未だジョバンニはしつこくツエルリーナに言い寄っているので、ツエルリーナは唯一
 ジョバンニの手に落ちなかった女性。
・第1幕5場 関係を持った女性の名前を載せたカタログをエルヴィラに見せるレポレッロが、女性の身分が
 高くなるにつれ旋律も2度ずつ上がり、大きな女性の時は音楽も歌声も大きく、小さな女性の時にはそれらも
 小さくなって表現される。
・第1幕13場 
 モーツアルト研究家のアインシュタイン説では、アンナは許婚のオッタヴィオだと思ってジョヴァンニと関係を
 持ったが、そうではなかったと知る。しかしそうとは言えないので「ジョヴァンニから身をよじって逃げた」
 とウソをつき、18世紀の観客は彼女の言葉の裏の真意を理解し、彼女の言葉通りに受け取ったオッタヴィオを
 悲喜劇的な効果を与えたと解説している。
    ↓
 なるほど、女好きのジョヴァンニはアンナには全く興味を示していないし、ジョヴァンニの死後も、アンナは
 許婚のオッタヴィオと結婚するのを1年延ばして父の喪に服すふり。
 アンナは常時ヒステリックに歌い続けているようだが、実際の心の中は複雑な人物ではないか。
・第2幕9場では、変装がばれたレポレッロがト短調で命乞いをし、残る5人がレポレッロに驚くところでは
 変イ長調に転調、再びレポレッロが変ホ長調で歌いあう。それぞれの個性を引き立たせる為に転調を使用。
・第2幕10場のエルヴィラのアリアはウイーン版で追加されたものだが、最初は純真な愛を貫き、ともすると
 世間知らずな部分すらあったエルヴィラが、盲目的な状況から、現実を直視してジョヴァンニに生き方を変えろ
 とアドバイスするに到る成長が見てとれる。