年末までのホリデーシーズンとは異なり、1月に入ってからはどの演目も比較的チケットが入手し易い状況にあるが、この「カルメン」はなかなかの人気。
今期の新しいプロダクションでもなく、配役も(私が知る限りでは)あまり話題性があるような印象は受けなかったが、その人気はやはり長年気に入られ知名度の高いこの演目のパワーなのか、プレジデントデーの連休明けで、学校によっては今週いっぱいがお休みというところもあるらしくそのせいか。

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by Georges Bizet
Libretto by Henri Meihac and Ludovic Halevy
based on the novella by Prosper Merimee

指揮:Emmanuel Villaume
モラレス(バリトン)士官 Morales, a corporal : Stephen Gaertner
ミカエラ(ソプラノ) ホセの許婚 Micaela, a peasant girl : Krassimira Stoyanova
ドン・ホセ(テノール)衛兵の伍長 Don Jose, a corporal : Marcelo Alvarez
スニガ(バス)衛兵隊長、ドン・ホセの上官 Zuniga, a captain : Jeffrey Wells
カルメン(メゾソプラノ)タバコ工場で働くジプシーの女 Carmen, a gypsy : Nancy Fabiola Herrera
フラスキータ(ソプラノ) Frasquita : Rachelle Durkin
メルセデス(メゾソプラノ ただしソプラノとする楽譜もある) Mercedes : Edyta Kulczak
エスカミーリョ(バリトン) 闘牛士 Escamillo, a toreador : Lucio Gallo
ダンカイロ(バリトン)密輸商人 Le Dancaire : John Hancock
レメンタード(テノール) Le Remendado : Jean-Paul Fouchecourt

今期は8回公演されるが、そのうち一回だけは本来のカルメン役であるオルガ・ボロディーナ Olga Borodina に代わって、ナンシー・ファビオラ・ヘレーラ Nancy Fabiola Herrera が演じることになっており、今回は本来のボロディーナと思って観に行ったところ、病気で急遽ヘレーラがカルメンを演じた。

今回のヘレーラは、2005年10月に、急遽代役としてカルメンを演じ、NYタイムズには "Carmen" With an Unexpected Gypsy という見出しで好意的に書かれていた。(画像はNYタイムズで相手役はベルティ)
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メトの緞帳が開くと、ドンゴロスのような生地の幕があり、それにまるでグレコが描いたようなカルメンの顔や運命を決めるタロットカードなどが投影されていく。

全幕を通じて、テノールのドン・ホセ役のマルチェロ・アルヴァレスは安定していたと思うが、カルメン役のメゾ・ソプラノのヘレーラは最初のうちは声が出ていないし、何だか最後まで観客は感情移入できず、ドン・ホセの許婚ミカエラ役のソプラノ、クラシミラ・ストヤノーヴァの一人舞台のよう。
1幕目のストヤノーヴァのアルヴァレスとのデュエットも良かったが、3幕目のアリア「何が出ても恐くない」は本当に聴きごたえがあった。
通常であれば、歌手の歌が終わると楽器が未だ演奏されていてもすぐに拍手をしてしまうアメリカ人だが、今回だけは彼女が歌い終わって皆がその歌の余韻に浸りつつ最後ホルンの音が消えてなくなるまで待ってからの大拍手。カルメン役のヘレーラには一度も「ブラバ」と声がかからなかったが、ミカエラ役のストヤノーヴァには何度も声がかかり、拍手が一番長く続いて、なかなか満足できず拍手できないでモヤモヤしていた観客が、ようやく発散できたような感じだった。
エスカミーリョ役のルチオ・ギャロ Lucio Gallo がいただけない。二幕目の「闘牛士の歌」などは???という感じで、これなら歌は他のバリトンの方が(ダンカイロ役など)の方がずっとましだし、見た目はスニガ役のジェフリー・ウェルズの方が背もすらっとしていてかっこいいと思えてしまったほど。四幕目ではさすがに声も出ていたが、美声のドン・ホセと比較してしまうと歌に関しては何故カルメンが心変わりしてしまったかが不思議に思えるぐらい。

一幕目の有名なテーマ曲「ハバネラ」の演奏や歌がゆっくりで、その方がカルメンのよりドロドロとした雰囲気が現われているのかも知れないが、どうも私には重たすぎた。
最初のたばこ工場の女工達の歌もあまり感心できず。

三幕目の前奏曲のフルートは観客を引き込んでいったように感じる。フルートの演奏が終わると指揮者のヴィロームもフルート奏者に拍手。
そして、幕が開いた時には、降りしきる雪の情景の美しさに観客から感嘆のため息。

四幕目の最後、カルメンがドン・ホセの持ったナイフに刺されるシーンだが、彼女があえてわかって刺されに行くと解釈する演出もあると聞くが、今回の演出は、彼女はドン・ホセが彼女を刺すほど勇気がないと見限ってか、彼のナイフめがけてあえて走り寄り、ぎりぎりのところでドン・ホセは彼女の想像通り彼女を刺すことが出来ない。その姿をみたカルメンがドン・ホセを嘲笑すると、その姿に怒ったドン・ホセがいきなり彼女を刺す。刺されたカルメンは即刻息絶えるのだが、その後ドン・ホセの短い歌の間中、口をぽっかり目も見開いてずっと観客の方を向いたまま。彼が最後に目を閉じてあげるのだが、口はそのままとなかなかリアル。

予定よりも10分程度伸びて11:40PM に終演したが、普段であればカーテンコール中であれ席を立って家路に急ぐ人が多いが、今回の観客はなかなか帰らない。
スタンディングオベーションはするのだが、拍手はまばらという不思議なアプローチだった。皆、耳なじんだ曲ばかりの大好きな「カルメン」という演目に対しての敬意の現れなのだろうか。
通常であれば拍手が鳴りやまない中、その拍手へのお礼としてカーテンコールがあると思うのだが、順次歌手や指揮者が出てきたので拍手をし、彼らが交代する為にカーテンの向こうに行っている間には拍手がないという、全く本来のカーテンコールや拍手のありようと逆の状況。
唯一目立って拍手の多かったのはソプラノのストヤノーヴァ。観客の反応は正直。

この不思議なカーテンコールについて、友人のアメリカ人(彼女は観に行っていない)に聞いたところ、プレジデントデーの3連休明けの日で観光客が多く、どう反応して良いのか分からない観客が多かったのではないか?と。
確かに、今回はアメリカ国内からの観光客とおぼしき観客が非常に多かったのは確かかも。

受け売りの備忘録

1873~1874年に作曲され、初演は1874年3月3日のパリ・オペラ・コミック劇場。

原作はメリメの小説で、1845年に発表された原作は、彼が聞いた義賊の実話を基にしており、カルメンはジプシーであり娼婦だった。
小説は、死刑を目前としたドン・ホセから著者が彼の話を聞き出すという構成になっていて、ドン・ホセの目から見ることになり、彼が主役。
カルメンにはすでに夫がいた上、ミカエラは原作では名前もなく回想場面での登場のみ。

ビゼーが作ったオペラは全部で15作あるが、5つは未完のままで、「カルメン」は完成させたうちの最後の作品。
イタリアのヴェリズモ・オペラ(19世紀末にイタリアで生まれた文学理論のヴェリズモから。実存主義的オペラ)に影響を与えた。

ジプシー(ロマ)とは wikipediaより

ロマ(Roma、単数形はRom)は、北インド起源の移動型民族。移動生活者、放浪者とみなされることが多いが、現代では定住生活をする者も多い。かつてジプシーとして知られた彼等だが、ジプシーはエジプト人という誤解から来ていること及び既に偏見、差別的に使用されているため、最近では彼等の自称としてロマ(その単数形のロム)が使用されるようになった。
ハンガリーにおけるロマジプシーという呼び名は、「エジプトからやって来た人」という意味の「エジプシャン」の頭音消失したものと言われる。彼らの主流は、インドから移動してきたと考えられているが、非インド起源であることをアイデンティティとするジプシーとして、コソボ紛争で有名になったアッシュカリィやエジプシャンなどがある。
アルバニア語を母語とする彼等はロマとアルバニア系等との混血の子孫とみられるが、特にエジプシャンはアレキサンダー大王に従って移民したエジプト系の末裔を自称しており、それぞれがロマとは別のグループであることを主張する傾向がある
ジプシーという言葉を物乞い、盗人、麻薬の売人の代名詞のように使う人間も多く、注意が必要である。また、ロマという自称を使わないグループも存在する。このため誤解・ステレオタイプ・偏見・無知を避けるよう十分な注意を払う必要がある。