今期のメトでは、新しいプロダクションのマクベスは3つの時期に公演されている。
まずは10月、今年の1月、そして今期終盤の5月。
10月のマクベス とでは、ダンカン王の遺児役以外、主な配役はがらっと変わっているので、再度観てみることにした。
画像NY TIMESより
1

Music by Giuseppe Verdi
Libretto by Francesco Maria Piave and Andrea Maffei
after the play by Shakespeare

Conductor : James Levine
マクベス(バリトン)スコットランド王ダンカンに仕える将軍 Macbeth : Carlos Alvarez
バンコー(バス)スコットランド王ダンカンに仕える将軍 Banquo : Rene Pape
マクベス夫人(ソプラノ )Lady Macbeth : Hasmik Papian
マルコム(テノール)ダンカン王の遺児 Malcolm, Duncan's son : Russell Thomas
マクダフ(テノール)スコットランド・フィフの領主 Macduff, Thane of Fife : Joseph Calleja

1

一幕目の最初のあたりはオーケストラの方が遅いのか、歌手が早いのか、少々違和感を感じてしまった。

マクベス役はポスターなどにもなった10月や1月に登場したルチーチも非常に良かったがあまりに生真面目な感じを受けたので、私は今日のカルロス・アルバレスの方が良い印象を受けた。
2幕目で王様を殺して罪の意識にさいなまれている場面では、マクベス夫人を傍らに、しかられた子供が爪を噛んだり下唇を突き出していじけているようなイメージなのか、手を口許に持っていったり口が「へ」の字になっていたり、ルチーチとはまた違った表情だった。
NYタイムズ紙によると、ルチーチよりもアルバレスの方がよりヴェルディバリトンに近いが、ルチーチも良かったと書かれていた。
ヴェルディバリトンというのがどういうものなのか良くわからないのだが、4幕目の最後のアリアの時には、感情移入が非常にされていてセクシーな声の印象を受けた。
この時のブラボーと拍手がどの歌手のどの歌よりも大きく長かった。

マクベス夫人のパピアンは、、、前回のグレギーナと大きく水をあけられているかも。
今期は彼女がタイトルロールを演じた ノルマ を観ているが、その時と同様、最初のうち彼女の息継ぎの音が気になってしまった。
一幕目でベッドに横たわって登場し、すぐに手紙の朗読の後に歌が始まるのだが、横になった時に髪が口許にかかったままだったようで、何度も何度も歌いながら手で髪をよけようとしているのが気の毒だった。そのシーンではグレギーナは長い髪を三つ編にしていたが、今日のパピアンは長い髪のままだった為。
2幕目には赤い舞踏会用のロングレスの裾を踏んで慌てて歩み直していて、それから以降は絶えず手でスカートを持ち上げて歩いていたのも歌に集中できず少々気の毒と言えば気の毒か。
彼女の場合はグレギーナと異なり高音は安心感があるが、低音がいただけない。グレギーナはドスが利いた声とでも言うべきかメゾソプラノのような印象だったが、パピアンは低音のみならず弱音を延ばす時も弱すぎて聞こえないかと。

バンコー役のルネ・パペはワグナー物への出演が多いそうだが、その朗々と歌う歌いっぷりが良い。

マクダフ役のジョセフ・カレイヤもとても良い。10月にこの役をやったピッタスの方がより声質が透き通った感じの声だったが、声量はカレイヤの方がゆうにあり、同じテノールの王様の遺児を演じたラッセル・トーマスと共演すると顕著となったように思われる。彼のアリアの後は、マクベスの最後のアリアの次にブラボーと拍手が多く、カーテンコール時もとても拍手が多かった。

10月の公演時と演出はほぼ同じだが、少々違う点もあった。
バンコーが殺される時に、首をナイフでかき切るシーンでは、首のまわりに血糊がついたがそれは今回はつかず。
4幕2場の狂ったマクベス夫人のシーンで、10月の時には吊るされたライトを左右に動かすだけでなくライトを持って一階の観客を照らし出すという演出があったが、その10月の別の公演時がテレビ放送されたものだと照らし出すことはなく、今日もなかった。

隣の席のおばあさんと少し話したところ、彼女も10月の公演を観て今日は二回目。また別のおばさまも1月の公演を観て今日が二回目と。
リピーターが案外多いのか、それとも事前にテレビ放送やライブインHD(有料で映画館で放映されるもの)で観た人が多いのか、10月の時には色々な舞台装置が現れる度に声があがったり笑い声がおこっていたが今回はそれはなく、要所要所のマクベス、マクベス夫人、マクダフ、バンコーのそれぞれの聴かせどころのアリアの前にはシーンと水をうったようになっていた。
終演してから帰途につく男性が、一番最後に歌われた曲を口ずさんでいたのが印象的。