ニーナ・アナニアシヴィリの白鳥の湖を昨年観たが、背中を観客席に向けて両手で羽を思わせる動きがやはり秀逸で、また今季も白鳥をやるので楽しみにしていた。
今期の予定では、オープニングガラ のジゼルを除けば、白鳥一回、ドン・キホーテ一回、ジゼル一回の3回の公演のみ出演の予定で、まず最初は来週の月曜日の白鳥が予定されていた。
しかし、今日の公演に出演予定だった ヴィシニョーワ が怪我で代役としてニーナが踊ることに。ヴィシニョーワ目当てでチケットを買った人を満足させるには、ニーナしかいないと言うことだろうか。

ガラで観たヴィシニョーワの「瀕死の白鳥」は、勿論今日の「白鳥の湖」と振付師も作曲家も異なり雰囲気が違って当たり前なのだが、ガラのヴィシニョーワの白鳥は瀕死というよりは未だもう少し元気が残っているように見えたので、「白鳥の湖」版の白鳥役はどうなるか少々楽しみでもあったが。

また、パ・ドゥ・トロワに出演予定だったソリストの加治屋さんが降板して代わりに Simone Messmer、そしてもともと Simone Messmer が踊る予定だったスペイン人の踊りの部分には Melanie Hamrick となった。

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振付:Kevin McKenzie after Marius Petipa and Lev Ivanov
音楽:Peter Ilyitch Tchaikovsky

Odette-Odile : Nina Ananiashvili
Prince Siegfried : Marcelo Gomes
The Queen Mother : Maria Bystrova
Wolfgang, tutor to the prince : Kirk Peterson
Benno, the prince's friend : Gennadi Saveliev
von Rothbart, an evil sorcerer : Vitali Krauchenka and David Hallberg

最初の王子の誕生日パーティの場面で、大きなポールの先に傘のような物がとりつけてあり、そこから各女性群舞の人数分のテープが垂れていて、それぞれ女性がそのテープを持ちつつ男性達と踊り、動きに乗じてテープが交差して絡まっていくように見せて、最後はそれが見事に解き放たれて終わるシーンがあるのだが、一人のダンサーが交差したテープをうっかり手から離してしまったようで、一本だけが行く先なく他のテープにからまってしまい、最後の決めのポーズの時にホールバーグとアイザック・スタッパスに担がれた王子役のゴメスの前にもつれたテープがたらんと垂れてしまい、思わずスタッパスが「ええっ?」と上を見上げていた。

王子の友人役のサヴィリエフは今日は絶不調だったのか、閉脚のまま斜めにジャンプする時は高かったが、開脚しつつ大きくジャンプをしながら丸く進んでいく時のジャンプが全然本来よりも跳べていないように感じた。また、パ・ドゥ・トロワで二回転して片膝をついて最後のポジションを取る時にぐらついていた。
彼はもともとロシアのキエフバレエではプリンシパルとして活躍し、ヴィシニョーワによって招かれたABTでは未だソリストというのも気の毒だが。サヴィリエフの画像はこちら

ABTの弱点である群舞の動きが不揃いということはあるが、2年前に観た時の群舞よりもより揃ったように感じた。(画像はHPより)
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今回のコールドの中には、一人だけではとても上手いが、集団の中では動きが早すぎたり四肢の長さや肌の色が少々違うので浮いてしまう昨夏からソリストのミスティ・コープランド Misty Copeland などが居なかったおかげだろうか。
しかし、今日の二幕目の二羽の白鳥は巨大だった。昨夏から加治屋さんと同時期にソリストに昇格したクリスティ・ブーン Kristi Boone とソリスト10年目を迎えるヴェロニカ・パート Veronika Part。
二人共が同じように大柄で背格好も似ているので二人だけが踊る場面では未だ違和感が少ないが、ほかのコールドの人達(中には大きな女性もいたが)と踊る際などもつい目が行ってしまう。
片手を高く挙げて手首を曲げる場面では、その手が白鳥の首や頭を想像させるのだが、そこの手首などの角度だけはじっとしている場面だけに揃えていてほしいような気がした。

前半の湖の場面でのニーナの見せ場はとても良く、「ブラバー」と多くの声がかかり、拍手喝采。彼女が出てくると会場が水を打ったように静かになって見入っているのがわかる。
前半終わった時点で、後ろの席の相当なバレエファンとおぼしきアメリカ人のおじさまは、「彼女はどうやってあの手の動きをやるんだ?」と奥さんに感嘆の声をあげていたり、別の女性は「未だ何年も踊れるわね」と感心していた。
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ところが、非常に残念だったのは後半の黒鳥のオディールになって踊る32回転のフェッテ。昨年観た時とは全く違って、回転の軸がぶれてバランスも危うく、軸足の立つ位置もどんどんずれていってしまう有様。今年45歳の彼女には致し方ないのだろうか。観客も一番の見せ場を楽しみにしていただけに、その落胆とも何とも言えない雰囲気に、「ブラバー」の声も拍手も前半よりも少ないように思えた。(画像danza balletより)
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勿論、白鳥の時と黒鳥の時とでは、全く顔の表情も手先の動きも踊り分けていて、十分に見ごたえはあるので、来週月曜の公演では是非ピルエットも頑張ってほしい。
この白鳥よりもハードなドン・キホーテに6月14日には出演予定な上、7月2週目までのNY公演後にすぐに日本で「海賊」などの公演予定だが、果たして大丈夫だろうか、、、と。

今日、安定していたのはゴメスとホールバーグ。
黒鳥の危ういピルエットの後、ゴメスの力強い安定したピルエットで観客もようやく安心して拍手喝采。
私としては、今まで観た演目のせいだろうが、ゴメスのイメージは オセロマノン のデ・グリューや今期のガラの時のゴマ塩頭のオネーギンなど、男臭かったり中年だったりと性格俳優的な部分を多く感じて好きだったので、今日はすっかり髭も剃っていて何だか王子役が新鮮でもあり、不思議でもあり。
最後に湖に飛び込むシーンでは、以前に観たマキシム・ベロセルコフスキーが飛び込む時よりも、背中がもっとそった状態でより印象的だったかと。
一方、ホールバーグのイメージはどちらかと言うと線が細い王子様系かと思っていたところ、今日は悪役だったので、目をかっと見開いて目力を感じさせる表情だったり、にやりと笑う表情など、なかなか悪役も似合っていて、これも又新鮮な驚きだった。
一度、長いフレアスカートの女性をリフトする際に彼女の足を持ち上げようとしてそこに彼女の足がなく、慌てて持ち直していたが、ゴメスとはまた違った線の綺麗なホールバーグの良さがそれは些細なことにしていたかと。

全く記憶が定かではないが、客席に背を向けてニーナが手を動かしながら動くシーンなど、昨年とほんの少しだけ振付が変わっていたような気がした。気のせいかも知れないが。

最後のカーテンコール時には、会場から多くの花がニーナに投げ込まれ、花束の中から一輪を抜いて通常は相手役の男性にあげるぐらいだが、今日はゴメスとホールバーグのみならず、指揮者にも、そして最後にはオーケストラピットにまであげていた。