非常に有名なコンテンポラリー系の振付家トワイラ・サープ Twyla Tharp 女史のワールドプレミアの演目である「Rabbit and Rogue」などを観に行った。演目の日本語訳としては「兎と悪党」と言ったところか。

135以上のバレエの作品や、5本のハリウッド映画や、ブロードウェイでも振付をしている彼女とABTとの20年以上もの関係を祝い、今回新しい作品が発表された。
音楽はダニー・エルフマン Danny Elfman 氏で、映画「シザー・ハンズ」「バットマンリターンズ」「スパイダーマン」の音楽などを作曲していて、今回初めてABTに楽曲を提供した。
前夜がプレミアで、今回はマチネに行った為、2回目の公演となるが、プレミアとはまた違ったキャスト。
前半は同じくコンテンポラリーの「Etudes」、後半が新作となった。

★前半
ETUDE
振付:Harald Lander
音楽:Knudaage Riisager (after Carl Czerny)
出演:Irina Dvorovenko, Maxim Beloserkovsky, Mikhail Ilyin ほか
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もともと3人目としてジャレッド・マシューズ Jared Matthuews が予定されていたが、パンフレットの差し込みスリップにも間に合わなかったものと見えて、開演前に放送で変更が伝えられた。
ジャレッド・マシューズは後半にも出るようになっていたので、そちらで観られたが。

ミハエル・イリン Mikhail Ilyin は、ロシア出身で今年初めにABTに入ったばかりだが、すでに経験も豊富なので、現在コールド(群舞)に所属するが、この大役を担当した模様。
この演目は以前、キーロフバレエ(マリインスキー劇場)バレエの公演時にも観たものだが、主役の男性よりも準主役の男性の方がよりピルエットや二回転ジャンプなど技巧が要求され出番も多い。
最初、彼も緊張していたのか、何でもないジャンプの後などふらついて見え、観客の拍手もたいしたことがなかったが、徐々に良くなってきて、最後は大きな拍手をもらっていた。
ただ、やはりキーロフのレオニード・サラファーノフが二回転ジャンプを6回連続でこなしていたのに対し、今回のイリンは二回転ジャンプは連続で二回しかやらなかった。

演目上、配役がそのようになっているので仕方がないかもしれないが、マキシム Maxim Beloserkovsky の出番が少ないのはいささか残念。

キーロフに比べ、最初のバーレッスンの時のアラベスクなどの足の高さや手の位置にばらつきがあるものの、足だけを動かすシークウェンスは音楽のテンポがキーロフの時よりも遅かったようにも感じたが、ABTの方がキーロフよりも合っていた。相当ここの部分は練習したと思われる。

イリーナ Irina Dvorovenko は相変わらず綺麗。今回は加治屋さんも出演。

★後半
RABBIT AND ROGUE
振付:Twyla Tharp
音楽:Danny Elfman
衣装:Norma Kamali
Rogue : Marcelo Gomes
Rabbit : Sascha Rdetsky
Rag Couple : Kristi Boone, Cory Stearns
Gamelan Couple : Maria Riccetto, Jose Manuel Carreno
Quartet : Misty Copeland, Sarah Lane, Jared Matthews, Craig Salsterin
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主だった配役は、すべてプリンシパルやソリストなのだが、今回 Rag Couple 役でのコリー・スターンズ Cory Stearns 一人だけがコールドからの大抜擢。
以前にコールドの彼を観て、背丈や容姿から良いなと思っていたので、初めてデュエットやほんの少しだがソロがあり、じっくり観ることが出来た。しかし、プレミアには出ていなかったこともあり、今回が彼の最初の演技となり、とにかくかちかち。
相手役は、先日の 白鳥の湖 で巨大な白鳥を感じさせたソリストのクリスティ・ブーン Kristi Boone。彼女は背が高く結構しっかりした肉付きなので重たいのかも知れないが、彼女をリフトするスターンズは丁寧に一生懸命にやっているのはわかるが、動きがなめらかでない。彼女の足のどの部分に手を置くかなど、その手を置く場所をあらかじめ見ていたりとこれからやる動きが読めてしまうような感じ。最後の方になって表情に余裕がかろうじて出て来たが、是非これから頑張ってほしいかと。

それに比べ(というか比べるのも失礼なぐらいだが)、さすが40歳のプリンシパルのカレーニョ Carreno がリフトすると綺麗。相手役はマリア・リチェット Maria Riccetto なのでブーンよりもずっと華奢で軽いだろうが、容易く軽々とリフトしていた。いつもリフトとはそういうものだと漫然と観てしまっていたが、前者のスターンズのぎこちないリフトを観た後だと、いかにリフトが大変で、上手い男性が女性をリフトするとこうも違うのかと実感。

それにしても、この演目は主役が男性二人というのが良い。それも今回の配役はゴメスとラディツキー。彼らの組み合わせは私が非常に気に入った昨シーズンの オセロ でのオセロとイヤーゴでの対峙を彷彿とさせるもので良かった。この演目の方がコミカルな部分が多くてコンテンポラリーではあるが面白かった。
素晴らしいこの二人に加え、ソリストのサルスティン Salstein もコミカルな良い味。彼は昨シーズン THE DREAM ではパックの役を好演していたが、今回もなかなかコミカル。
画像(HPより)は前夜のプレミアの時の配役なので、左のかがんでいる黒いコスチュームがコルネホ、白いコスチュームがサルステン、ジャンプしている黒いコスチュームがスティフィル。
今回はその役にそれぞれ、ラディツキー、サルステン、ゴメスとなっていた。
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カーテンコールでは、ゴメスはラディツキーと共に拍手をもらおうとしたが、ラディツキーはゴメスに譲り、最後は二人が肩を組んでの挨拶となっていた。