今週のABT(アメリカンバレエシアター)はドン・キホーテを公演していて、なんと3回も観に行くことになったが、今日はその最終日。
まず初日の月曜の マーフィとスティフィル版を、水曜はもともとヴィシニョーワとカレーニョが組まれていたがヴィシニョーワが怪我の為に ニーナ・アナニアシヴィリとカレーニョ版、そして今夜はもともと組まれていたニーナ・アナニアシヴィリとアンヘル・コレーラ版

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振付:Marius Petipa and Alexander Gorsky
音楽:Ludwig Minkus
指揮:Ormsby Wilkins

ドン・キホーテ Don Quixote : Victor Barbee
サンチョ・パンサ Sancho Panza : Alejandro Piris-Nino
キトリ Kitri : Nina Ananiashvili
バジル Basilio, a poor barber : Angel Corella
ガマーシュ Gamache, a rich nobleman : Craig Salstein
ロレンツオ Lorenzo, Kitri's father : Isaac Stappas
メルセデス Mercedes, a street dancer : Kristi Boone
エスパダ Espada, a famous matador : Sascha Radetsky
フラワーガール Flower Girls : Renata Pavam and Isabella Boylston
ジプシーカップル Gypsy Couple : Simone Messmer and Joseph Phillips
森の女王 Queen of the Dryads : Veronika Part
キューピッド Amour : Sarah Lane

月曜、水曜とも指揮者が異なったが、今日はまた違って、ABTの正指揮者であるウィルキンス氏。
しかし、どうしてそんなに速く指揮をしたがるのか?と思うぐらい今日は最初から異様に速い。前奏曲など彼のスピードに付いていけないオーケストラがゼーゼー言っているのが感じ取れるぐらいの音で、トランペットは音をはずす始末。
三幕目はそれほど感じなかったが(というか彼のスピードにならされたのかも)一幕、二幕とも速過ぎて、ダンサーもそれについて行くのが必死になっているのがわかる。
二幕目の居酒屋での最初のシーンなど、コールドのダンサー数名が踊って周りで見ている人達(ダンサー)が手拍子をする時など、群舞の動きに手拍子を合わせると音楽と手拍子が合わないという状況に。。。
ただ、そのスピード感を一人楽しんでいるかのように活き活きと、まるではしゃいでいるかのようなのがアンヘル・コレーラ。
彼は大得意のジャンプやスピンなどが多く独り舞台になれるこのバジルの役を十八番にしていて多いに気に入っているのか、先週は風邪をひいて他の人に代わってもらうなどしていたので元気が有り余っていたのか、高速回転もこれが人間の限界と思えるような切れ味のスピンの連続。海賊で観たアリ役の時よりも凄い。

水曜はいささか遅いと感じたがニーナの一幕目のピルエットだったが、全速力の指揮とコレーラの超高速スピンの後の今日のニーナは、その時だけ彼女の顔も変わっていて、すごい気合の入りようで良かった。
一幕目の最初の頃に、ニーナ扮するキトリが、父親にコレーラ扮するバジルとの仲を許してもらおうとお願いするシーンでは、月曜のマーフィとスティフィルは跪いてお願いし、水曜のニーナとカレーニョも同様だったが、今日の二人はそれぞれ立ったまま父親の両方の腕に頬ずりをしてお願いするしぐさに変わっていた。
コレーラが右手一本でニーナを頭上高くリフトする時は、どうしたことか、コレーラは二度とも足元がふらふら定まらなかったのには驚いた。
一幕目最後の方でニーナとコレーラが同時にスピンをするシーンがあるのだが、コレーラは高速スピンを見せたため、音楽に合わせて終わりはばっちり二人ともあっていたが、途中はニーナの回転数とずれてしまうので、果たしてこの場ではコレーラの高速スピンは必要あるのかどうか正直疑問だった。
一緒に行った友人も、技術ばかり見せるのではなく、ダンスとして二人のコラボレーションを見せるべきではと言っていたし、水曜のカレーニョはニーナの動きと全くシンクロしてスピンをしていたので、私もそちらの方が綺麗に感じた。ただ、40歳のカレーニョには、コレーラのように早くスピンが出来ないだけだったのかも知れないが。。。

(画像はHPより)
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二幕目のバジルが狂言自殺をはかって、死んだふりをしているコレーラにニーナがよりそったところ、冗談でコレーラが彼女の胸を触って笑いを取るシーンでも、一番コミカルだったかと。

三幕目の注目のグラン・パ・ド・ドゥは、秀逸。
水曜と同様、やはりアラベスクのポーズで男性が片手を取って女性の周りを一周しその後に女性の手を離して、女性が一人でバランスを取るシーンが二回本来ならあるところがなかった。
が、コレーラがニーナの片手を取って一周した後は、ニーナがコレーラのサポートを受けながらの高速回転。
ニーナの前に彼女の手をとりつつコレーラが背中を向けて立ってニーナの手を離して短いバランスを取るシークエンスが二回あるところは、一度は短く、二度目はコレーラが「どうぞニーナを観て下さい!」と言わんばかりにポーズを取ってニーナはバランスを決め、そのまま両手を高く挙げても再度バランスを見せたのはとても良かった。
コレーラのソロの部分では、舞台袖から音楽なしで悠々と出てきて、指揮者に軽くしぐさをして音楽を始めてもらい、足を前後に大きく開脚しながらジャンプをして円弧を描く動きの時には、途中で二回転を二度入れていて、拍手喝采。
あまりに彼への拍手が大きいので、その次はニーナのソロが始まるため、自分への拍手が彼女の登場時の妨げにならないようにしばらく舞台から去らずに拍手が鳴りやむのを待ち、手をそっと挙げて拍手をせいしてニーナ登場~!というポーズをしつつ舞台から消えていった。
ニーナのソロ、フラワーガール二人目のソロの後に再度コレーラのソロがあるのだが、今度の彼の登場時も音楽はなく、登場した時には左目でウインク。そして音楽スタート。彼がここまで伸び伸びと活き活きと楽しそうに踊っているのは初めて観たような気がする。
コレーラの高速スピンにニーナのフェッテという最後の見せ場では、やはりニーナのフェッテの途中からどんどん音楽が速くなっていったが、速過ぎ。しかし、ニーナは本当に良く頑張って踊っていた。
そして最後の二人の決めのポーズの前に、普通はそんな振りは入っていないはずなのだが、コレーラに背を向けた状態で居たニーナが後方にジャンプし、それをコレーラが見事にキャッチしていきなりフィッシュの形になった時には会場はビックリ、そして大喝采。会場で偶然会った知人も、後ろ向きのまま飛んでフィッシュのポーズを決めたのは初めて観たと大興奮。あまりに素早く綺麗にきまったが、予想をしていない動きだっただけに、もう一度DVDのようにその場面に戻して再度その動きを観てみたいぐらいだった。

今日の闘牛士役はラディツキー。彼は月曜にはジプシー役をやっていたが、今期しばらく彼の闘牛士役の姿がABTのポスターなどになっていたぐらいで、闘牛士役もかっこいい。残念だったのは、一幕目で彼が闘牛士のマントを肩越しに右に左にとたなびかせながら踊る見せ場では、音楽が速過ぎて人間の体は音楽に合わせて動かせても、大きなマントの動きまでは出来なかったのが気の毒かと。

今日のジプシーカップルの男性は、今年の1月からABTのコールドに加入したばかりのジョゼフ・フィリップス。彼はすでにサンフランシスコやマイアミのバレエ団で活躍をしていて、今期のガラ の一番最初の演目であったメリー・ウイドーでいきなり一番良い役を演じていて、いったい誰?と思った彼。偶然にも、二度ほど道端で彼を見かけたことがあるが、普通に歩いていたら色の白いちょっと肩幅の広い背丈は小さめの若いお兄ちゃんと言った印象だったが、今日のジプシー役はなかなか良かった。
ジャンプが良かったので、もしかしたら、次の世代のポスト・コルネホと言ったところかも知れない。
(画像はガラの後の時のもの)
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最後のカーテンコールは、全体での後カーテン脇からの登場が水曜は一度だけだったが、今夜は観客に応えて二度。
「ブラボー」や「ブラバー」は良く聞くが、カーテンコールであそこまで「ニーナ!」と声がかかっていたのは初めて。
白鳥の湖も、本来ニーナが予定されていた日(相手役はやはりコレーラ)の方が、ヴィシニョーワの代わりを務めた日よりも出来が相当良かったと聞くし、今日も、相手役のコレーラに乗せられたのもあるのかも知れないが、彼女の気合の入り方が違ったように思われた。
水曜にニーナを観た後の感想は、これだけ体力勝負となる演目では若いマーフィの方が良かったように感じてそう書いたが、前言を撤回しなければならないかと。
一緒に行った友人いわく、舞台は生き物で、観客の雰囲気や反応によってダンサーも乗せられ、また観客もそのダンサーを観てまた乗せられ、相乗効果で良い物が出来ていくが、今日はそのような感じだったのではと言っていた。私も同感。