昨シーズンの開幕をナタリー・デッセイとマルチェロ・ジョルダーニで飾ったこの新しい演出は、レヴァインの指揮のもと大当たりをしたが、今期はルチアの侍女以外は全て顔ぶれも新たに再演されることとなった。昨年の様子は こちら
二期目はもともと、アナ・ネトレブコを予定していたが、彼女の妊娠・出産時期が重なることから、彼女が復帰するであろう年明けまでのこの演目は、ディアナ・ダムローが初めてこのタイトルロールを演じることとなった。

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Normanno ノルマンノ(テノール)ランメルモールの隊長: Ronald Naldi
Lord Enrico Ashton エンリコ(バリトン)ルチアの兄: Vladimir Stoyanov
Raimondo ライモンド(バス)ランメルモールの牧師でルチアの家庭教師: Ildar Abdrazakov
Lucia ルチア(ソプラノ)エンリコの妹: Diana Damrau
Alisa アリサ(メゾソプラノ)ルチアの侍女: Michaela Martens
Edgardo エドガルド(テノール)ルチアの恋人: Piotr Beczala
Arturo アルトゥーロ(テノール)ルチアの政略結婚をさせられる相手: Sean Panikkar

以下画像はHPより
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ダムローは表情豊かになかなか良かったが、二幕目の最後の高音で終える部分が弱かった。最高音をひっぱる際、ナタリー・デッセイはクリアなキーンとした音でひっぱるのに対し、彼女の声はよりまろやかなので、最後の高音がややもすると弱く感じる時があった。
しかし、彼女のコロラトウーラが素晴らしい。フルートとのかけ合いが特に良いように感じた。
狂乱の場面では、ナタリー・デッセイと同様に歌いながらヴェールを引き裂く演出。しかし、デッセイが階段や床を転がったり、破いたヴェールを丸めてまるで赤ちゃんのように抱いてみたりしたが、ダムローはそのような動きはなく、プロンプターの上に寝転がったり、階段に座って私の横にお座りという具合にポンポンと空いた部分を手でたたいたり。
精神安定剤の注射を受けたとたん真顔で怖い視線を送るなど、表情も豊かで鬼気迫る笑顔を見せていた。
否が応でもナタリー・デッセイと比較されてしまうが、頑張っていたように思う。

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エドガルド役のピョートル・ベチャーラが秀逸。声が良い上に声量もあり、彼がここまで上手くなければダムローの独り舞台だっただろうが、それを阻止するに余りある実力かと。
二幕二場で、エドガルドがルチアに、結婚証明書にサインをしたと知り、君のサインなのか?答えてくれ!と迫り、ルチアがそうだと答える部分は、解釈の違いからさまざまな歌い方があるとのこと。
昨シーズンのジョルダーニは強い口調で次々と質問を重ねるが最後の「答えてくれ A me, respondi」の部分は泣きそうな顔での懇願となっており、ナタリー・デッセイ演じるルチアの「はい Si」は、顔をそむけて、どちらかと言うとはっきりめに答えていた。
一方今回は、「A me, respondi」は懇願型ではなく問い詰め型で、それに対して「Si」と答えるダムローは視線は合わせないが顔はエドガルドに向いていた。
三幕三場のエドガルドのアリアは一音だけ高いハイCを出すよりも、延々と高音と保ち続けなければならないので「テノール殺しのアリア」と呼ばれていて、あのパバロッティですら半音下げて歌っていたというぐらいの難曲。それをベチャーラは素晴らしい声量で朗々と聴かせ、会場を彼のファンにしていた。
最後に自害する際にお腹にしかけた血糊をにじませるのだが、血糊の入った袋か何かの操作を失敗して今回はお腹に血がついていなかったが。

お兄さん役の Vladimir Stoyanov 低音が聴こえない。昨年観た際は、Mariusz Kwiecien の調子が途中で悪くなり、3幕目から Stephen Gaertner に代わるというハプニングがあったが、どうも今回のストヤノフはやや弱いかと。

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エドガルド役への試金石と言われるアルトゥーロ役のショーン・パニカーは、スリランカ系という風貌からは想像できない凄く良い声で安心感がある。他の役も是非聴きたいと思わせてくれた。


1月末~2月初旬にかけての4回公演は、アナ・ネトレブコとローランド・ヴィラゾンのペアになる予定で、すでにネトレブコのルチアを観るべくチケットは購入済みなので、ネトレブコがキャンセルせずに出てくれることを期待しているところ。