一昨年のシーズンに Hei-Kyung Hongのラ・トラビアータ、昨シーズンに ルネ・フレミングのラ・トラビアータ、今シーズンの ガラのフレミングのラ・トラビアータ を観に行っていたが、今期はアニヤ・ハーテロスが歌う。昨シーズン、彼女の フィガロの結婚の伯爵夫人役 を観て、なかなか良い印象を受けたので、ほかの演目が観たいと思っていたところ、同じく昨シーズンの マクベス で好きになったルチックがアルフレードの父親であるジェルモン役をするので、行ってみた。

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左からマッシモ・ジョルダーノ、アニヤ・ハーテロス、指揮者のカリニャーニ、ジェリコ・ルチック

Music by Giuseppe Verdi
Libretto by Francesco Maria Piave, after the play 'La dame aux camelias by Alexandre Dumas
指揮 : Paolo Carignani
ヴィオレッタ・ヴァレリー(ソプラノ)娼婦 Violetta Valery : Anja Harteros
フローラ・ベルヴォア(メゾソプラノ)ヴィオレッタの友人で娼婦 Flora Bervoix : Theodora Hanslowe
ドゥフォール男爵(バリトン)ヴィオレッタのパトロン Baron Douphol : John Hancock
ドットーレ・グランヴィル(バリトン)ヴィオレッタの医師 Doctor Grenvil : Paul Plishka
ガストーネ子爵(テノール)共通の友人 Gastone, Vicomte de Letorieres : Eduardo Valdes
アルフレード・ジェルモン(テノール)青年貴族 Alfredo Germont : Massimo Giordano
アンニーナ(メゾソプラノ)ヴィオレッタの召使い Annina, Violetta's companion : Katryn Day
ジョルジョ・ジェルモン(バリトン)アルフレードの父親 Giorgio Germont, Alfredo's father : Zeljko Lucic

一幕目、あまりのオーケストラのスピードの速さにビックリ。席が左よりというせいもあるのかも知れないが、先々週ほぼ同じ席で ランメルモールのルチア を観て、全くそのようなオーケストラのばらつきを感じなかったので、やはり今日の指揮者のスピードが異様に速く、パーカッション系とヴァイオリンも合っていないように感じられた。
「乾杯の歌 Libiamo」ぐらいから、何とか舞台上から聞こえる歌声と、オーケストラピットからの音が違和感なく合ったように感じたが。
指揮者のそばに座っていた友人に後で聞いた話では、最初のうちは指揮者の息使いが異様に大きく聞こえてきていたとのこと。
アルフレードが登場して最初の歌が、あまりにぞんざいで低音が地声のように聴こえ、本当に彼はアルフレードなのか?と思えるぐらいだった。
それ以降は良く響く高音が伸びて来て良かったのだが、2幕目1場のアリアなどは、逆に彼の方がスピードがオーケストラよりも速いぐらいになり、これまた違和感。
3幕目の前奏曲は、対照的に非常にゆっくりゆっくり。
こんなにスピードの違う演奏は、メリハリと言うのだろうか。

ヴィオレッタのハーテロスは、一幕目では、ワイングラスに入った(おそらく水)をばしゃっと左手にかけてそのまま顔をぬぐって顔からポタポタ水が落ちたまま歌ったり、二幕目のアルフレードに嘘の手紙を書くシーンでは、本当に鼻をすする音をさせながら左手では目や鼻をティッシュかハンカチのようなもので押えての演技となり、ルネ・フレミングよりも体当たり的な演技。
彼女の声は大きく、良く通るソプラノなので、好みの問題だろうが、私はルネ・フレミングのまろやかな声質よりもずっと好きかも。
1幕目のコロラトゥーラは、フレミングも決して上手には歌えていなかったと思うのだが、ハーテロスのはあれはコロラトゥーラだったのかしら?と言った印象。「ランメルモールのルチア」で完璧なコロラトゥーラを聞かせてくれた同じくドイツ人のダムローを聴いた後だけに余計そう思ったのかも知れない。
3幕目のアリアの最後、か細いまま長くひっぱる音で終える部分で、一瞬音が途絶えて歌い直していたのが残念。

そして今回のお目当ては父親役のルチック。2幕目1場で初めて登場する父親役だが、ヴィオレッタとの長い対話の描写や、息子アルフレードとの対話など、あまり動きが少ないので、いつもどちらかと言うと退屈に感じてしまっていたシーンではあるが、今回、初めて飽きることなく観られた。特に、アルフレードとの父息子との対話の場面で、それぞれ離れた椅子に座りながらかけ合う歌の父親が、声を震わせながら息子に語りかけるその姿や歌声はとても良かった。

各幕ごとに、「不思議だわ」とヴィオレッタが言うが、1幕目のアルフレードと恋に落ちる自分に対して不思議に思うヴィオレッタは興奮ぎみに、2幕目はアルフレードがパリに行ったと聞いていぶかしがって言うのだがさらりと独り言のように、3幕目は死期を前に急に元気を取り戻した時に言うが、まるで亡霊でも見ているような感じで、それぞれ異なり面白かった。

ルチックは、未だ今期は別の演目に出るので、そちらも楽しみとなった。