小澤征爾氏が、1992年「エフゲニー・オネーギン」の指揮依頼、16年ぶりにメトロポリタンオペラの指揮をすることになり、今期は「スペードの女王」を指揮するので観に行った。
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music by Peter Ilyich Tchaikovsky
Libretto by Modest Tchaikovsky based on the short story by Alexander Pushkin
指揮:Seiji Ozawa
ゲルマン 近衛士官(テノール)Ghermann : Ben Heppner
トムスキー伯爵 ゲルマンの友人(バリトン)Count Tomsky/Plutis : Mark Delavan
伯爵夫人(メゾソプラノ)The Countess : Felicity Palmer
リーザ 伯爵夫人の孫娘(ソプラノ)Lisa : Maria Guleghina
エレツキー公爵 リーザの婚約者(バリトン)Prince Yeletsky : Vladimir Stoyanov
ポリーナ リーザの友人(ソプラノ)Pauline/Daphnis : Ekaterina Semenchuk
マーシャ リーザの召使い(ソプラノ)Masha, Lisa's maid : Erin Morley

金曜日の公演がシーズンプレミアだったが、主役のベン・ヘップナー Ben Heppner が風邪で本調子ではなく、最後に一番拍手が多かったのが小澤氏だったとか。
ヘップナーは昨シーズン、6回公演予定のあった トリスタンとイゾルデ をインフルエンザで4回キャンセルしていることもあり、今回は万全を期して臨んだであろうはずだったが。
今日のヘップナーは最初だけはややか細い声だったが、後からは良く通る声を発揮。しかし、相手役のマリア・ゲルギーナ Maria Guleghina がグイグイとその声量にまかせて押してくるので、1幕や3幕でのデュエットは、恋人同士のデュエットという印象は受けず、彼の声がかき消されてしまうことも。
昨シーズンのトリスタン役でも、急きょ登板となった相手役のベアードとのデュエットでも声量が負けてしまうことがあったように記憶しているが、前回も今回も病み上がり(?)だったせいなのか、それとも彼の声は見た目よりもより繊細で声量という点ではそれほどないのか。
2004年に公演された際は、この役をプラシド・ドミンゴが演じていたそうだが、どうだったのだろう。
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ゲルギーナは昨シーズン、マクベス でマクベス夫人を演じ、その威風堂々ぶりで良い印象を持っていたが、今日の演目では許婚者をふってでも恋に盲目になった若い女性のイメージにはいささか異なったかも。しかし、自分よりもギャンブルを取ったヘップナー演じるゲルマンに失望し、死を選ぶアリアはなかなかの迫力。

連隊の娘 でも好演していたフェリシティ・パーマー Felicity Palmer は、この演目ではより重要な役どころとして存在感があった。結構なお歳かと思われるが、それでいて歌唱もなかなか。
しかし、亡霊となって現れる際に、床をたたき破って下から登場するのだが、ゾンビじゃあるまいし、どうも私の持つ亡霊のイメージとは違う演出だった。
彼女は2004年公演時も同役をしている。
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原作ではほとんど登場しないリーザの婚約者のエレツキー公爵には、今期の ランメルモールのルチア で兄のエンリコ役をやっていたストヤノフ Stoyanov。ランメルモールのルチアよりもずっと良い人として美味しい役どころで歌は良かったように思うのだが、今回のヘップナーやゲルギーナという巨漢を前にすると、体格的に小さく細いので、威厳という点ではいささか難しかったかと。

途中の劇中劇でのバレエシーンでは、3組の男女のダンサーが登場するのだが、男性の右肩に女性を座った格好で乗せる際、一組がリフトに失敗。とても狭いスペースで、かつ、観客席にスライドした傾いた床でのバレエは非常に難しいと思われるのだが、メト独自のバレエ団なのだから、オペラでバレエシーンがある演目は限られていてせっかくの登場場面なのだから、リフトの失敗は残念かと。

金曜のシーズンプレミア時はインターミッションが2回あったのかも知れないが、今日はパンフレット(プレイビル)には2回とあって終演時間が11時45分と書いてあるところ、訂正の差し込みスリップで一幕後に一度インターミッションを取るだけとすると。すでに当日のネットには終演時刻は11時20分と変えてあったが、結局インターミッションが一回でも終わったのは11時40分だった。

メトの小澤氏へのインタビュー記事 概略
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質問:ボストン交響楽団を30年近く、そして2002年からウイーン国立歌劇場の音楽監督をしているが、オペラがより重要になったのか?
小澤氏:若い時代にカラヤンの助手をした際にカラヤンが指揮者はオペラとコンサートの両方を指揮すべきで、指揮とは両方のタイヤがきっちりと作動しないと走れない車を運転するようなものだと言っており、バランスが必要だ。

質問:オペラの指揮で難しいことは?
小澤氏:オペラ歌手と指揮者との間に距離があること。さもないと交響楽団などの指揮と変わらないが。

質問:スポーツ時の怪我が原因で指揮者になったというのは本当か?
小澤氏:本当。ピアノを勉強し、母親とピアノ教師が手を怪我しないようにスポーツはさせたがらなかったが、こっそりラグビーをやっていた。14歳の時にラグビーのナンバー8のポジションでの決勝時に、タックルされて2本の指を骨折し、ピアノ教師が作曲家か指揮者になることを示唆してくれ、指揮者となった。

質問:ホリデープランは?
小澤氏:家族と東京とハワイで過ごす。12歳の中学校時代、6人の女子生徒と3人の男子生徒でグループを作り、賛美歌を歌っていたが、いつも成城で会っており、現在45名のグループとなって兄弟2人も加入している。このグループには2人他の指揮者もおり、私は時々バリトンのパートを歌ったりアレンジをしたりしている。

受け売りの備忘録
原作のプーシキンの原作の設定と、チャイコフスキーのオペラ版とでは異なる点:
・原作では冷徹な野心家で賭けへの必勝法を知りたいが為にリーザに近づいた男としてゲルマンを、チャイコフスキーはゲルマンの葛藤などを追加してより人間味ある人物像に。それは台本作家で先にこの仕事を受けた弟のモデストによるところも大きいという説も。
・プーシキンはリーザを老女につかえる小間使いとして描き、チャイコフスキーは伯爵夫人の孫娘として描いた。
・原作ではリーザの許婚者のエレツキーの描写が非常に少ないのに対し、チャイコフスキーは彼をふくらませた。
・チャイコフスキーはカードの秘密を知る第三の男が伯爵夫人を殺すというストーリーを追加。