長年のレパートリーのひとつである「リゴレット」を観に行った。

本当は、タイトルロールのリゴレットを演じる予定だったルチック Lucic。
昨シーズンの マクベス でとても好きになったルチックは、今期は ラ・トラビアータ でアルフレードの父親であるジェルモン役を演じ、それも非常に良かったので、このリゴレット役も楽しみにしていたが、あいにく病気により全てこの演目は降板。
4月後半の「イル・トロバトーレ」には出演予定と現段階ではなっているが、彼のリゴレットを観たかっただけに非常に残念だった。

一方、マントヴァ公爵役のフィリアノーティ Filianoti は、12月のスカラ座のオープニングに「ドン・カルロ」を演じる予定だったのに、開演前の24時間前に彼の意に反して降ろされ、代わりにアメリカ人テノール歌手が歌ったという経緯があり、今期メトでこの演目に出演するのか心配されていたとのこと。
しかし、このリゴレットを演じるどころか、昨日の「ランメルモールのルチア」では、ヴィラゾンに代わってエドガルドを演じ、引き続き今日はリゴレットを演じるという大車輪の活躍。
そのせいもあり、始まる前にピーター・ゲルブ総支配人が舞台に登場。彼が登場すると、必ず誰か降板の説明かと会場はシーンとなったが、その雰囲気を察して「出演者は皆元気です」と言ったので会場からは笑い。フィリアノーティが、前日と今日と2日連続での出演となり、それはまるでダブルヘッダーのようなものなので、そこのところを理解してくれ、という内容だった。
どうも最近、本調子でないゲオルギューや、ヴィラゾンを使ったりしては、こういうエクスキューズをする機会が多いような気がする。。。

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by Giuseppe Verdi
Libretto by Francesco Maria Piave
指揮:Riccardo Frizza
マントヴァ公爵(テノール)The Duke of Mantua : Giuseppe Filianoti
リゴレット、公爵に仕えるせむしの道化(バリトン) Rigoletto : George Gagnidze
ジルダ、リゴレットの娘、16歳(ソプラノ) Gilda : Aleksandra Kurzak
スパラフチーレ、殺し屋(バス) Sparafucile : Mikhail Petrenko
マッダレーナ、スパラフチーレの妹(メゾソプラノ)Maddalena : Viktoria Vizin
チェプラーノ伯爵(バリトン) Count Ceprano : James Courtney
チェプラーノ伯爵夫人(メゾ・ソプラノ) Countess Ceprano : Grazia Doronzio
モンテローネ伯爵、チェプラーノ伯爵夫人の実父(バス) Monterone : Keith Miller
マルッロ、公爵の廷臣(バリトン) Marullo : Sebastian Catana
マッテオ・ボルサ、公爵の廷臣(テノール) Borsa : Mark Schowalter

今回、非常に舞台に近い左側の席を取ることにしてみたのだが、これは失敗。オーケストラの音が割れるのは予想していたが、ここまでパーカッションとバイオリンなどの音がズンチャズンチャとずれるとは。
歌手は立ち位置によってどのような音を聴きながら歌っているのだろう?と思ってしまった。

リゴレット役のガグニーゼ Gagnidze は表情豊かに声量も十分で、とても頑張っていたかと。道化師なので顔を白塗りしており、大汗をかきながらの歌唱となり、その化粧がドロドロして来ていて、舞台に近い席で観るものではないかも。

マントヴァ公爵役のフェリアノーティ Felianoti は、非常に良い声で声量もたっぷり。ゲルブ総支配人がわざわざ言い訳をしに出て来なくても良いのでは?と思われた。
2幕目に、ジルダ役のクルザックに言いよる時には、いささか泣き節というか、最後の声のひっぱり方が演歌調であまり好きではなかったが、まあそれもプレイボーイには色気が必要という歌い方なのだろうか。

ジルダ役のクルザック Kurzak、高音やコロラトウーラはちゃんと歌えてはいるのだが、はっきり通る声質でもなく、声量もなく、1幕目で彼女がアリアを披露し、最後の音を出しつつ自室に向かって行く時も、果たしてどれだけの人が彼女が未だ歌っていると気付いただろうか。
3幕目の自分がマントヴァ公爵の代わりに犠牲になろうかどうしようかと迷うシーンでは(座った席のせいもあるのかも知れないが)オーケストラの音しか聴こえず。

マッダレーナ役のヴィジン Vizin に到っては全く良くわからない。友人曰く、セクシーな女性として足を見せたりするので、その為だけに選ばれたのでは?と。こんな画像が NY TIMES には載っていたが。
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最後の拍手は、リゴレット役のガグニーゼ > ジルダ役のクルザック > マントヴァ公爵役のフェリアノーティ の順に大きかったのには驚いた。2番目と3番目が入れ替わるべきでは?と思うのだが。(画像も左から同じ順)
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やはり歌手の出来不出来などとは別の次元で、広く愛されているこのオペラ。最後のシーンでは、2か所から鼻をすする音が聞こえてきた。

現在も未だ未だオペラのことや歌手のことなど分からないが、もっと不勉強だった時期の 2006年に観たリゴレット では、不覚にも大好きなベチャーラ Piotr Beczala が出ていた。
その時はジルダ役のシウリーナ Ekatrina Siurina とリゴレット役のカルロス・アルヴァレス Carlos Alvarez に気がいってしまっていて、ベチャーラは上手なテノールという印象しかなかったが、今期は、一度だけこのマントヴァ公爵を演じるそうなので、出来れば聴いてみたいが、その時のほかの配役が今日と全く同じというのは残念。
今期、彼は ランメルモールのルチアエフゲニー・オネーギン で観て、いずれも素晴らしかったので、4月からのこの演目に出るダムローと、今期のルチアの前半のように組んでくれれば尚良いのにと。。。

夏に観た METオペラ@ブライアントパーク に出演していたソプラノの Joyce El-Khoury が観に来ていた。

受け売りの備忘録

原作はユーゴーの戯曲『王は愉しむ』Le Roi s'amuse

ユーゴーが、フランス王をモデルにした実話として物議を醸して戯曲の初演の翌日には上演禁止となってしまった。後にヴェルディがオペラ化する際も、上演許可を取るために、舞台設定は16世紀のままだが、
舞台はパリ→北イタリアのマントヴァ、フランソワ一世→マントヴァ公爵、せむしのトリブーレ→リゴレット、その娘ブランシュ→ジルダ、マダム・コッセナ→チュプラーノ伯爵夫人、殺し屋のサルタバディール→スパラフチーレに変えて制作した。

イタリアのマントヴァは「リゴレットの町」として知られてはいるが、あるはずのないリゴレットの家まで現在あるのだとか。