今期の目玉のひとつ、ワグナーの「ニュールンベルグの指輪」のリングサイクルの2夜目である「ワルキューレ」に行った。1夜目の「ラインの黄金」の様子は こちら

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by Richard Wagner
Libretto by the composer
指揮 : James Levine

ジークムント (ヴォータンが人間の女性との間にもうけた男子、ヴェルズング族、ジークフリートの父)テノール Siegmund : Gary Lehman
ジークリンデ (ジークムントの双子の妹、ジークフリートの母)ソプラノ Sieglinde : Waltraud Meier
フンディング (ヴェルズング族と敵対する一族の男、ジークリンデの夫)バリトン Hunding : John Tomlinson
ヴォータン(神々の長、北欧神話のオーディンに当たる)バリトン Wotan : James Morris
ブリュンヒルデ(ヴォータンとエルダの娘で英雄をワルハラに導くワルキューレの一人で、ヴォータンが最愛
 とする、ジークフリートの妻、ワルキューレの一番上の姉)ソプラノ Brunnhilde : Irene Theorin
フリッカ (ヴォータンの正妻、「結婚」の守護神)メゾソプラノ Fricka : Yvonne Naef
ゲルヒルデ(ワルキューレ、ブリュンヒルデの妹たち)ソプラノ Gerhilde : Kelly Cae Hogan
ヘルムヴィーゲ(ワルキューレ、ブリュンヒルデの妹たち)ソプラノ Helmwige : Claudia Waite
ワルトラウテ(ワルキューレ、ブリュンヒルデの妹たち)ソプラノ Waltraute : Laura Vlasak Nolen
シュヴェルトライテ (ワルキューレ、ブリュンヒルデの妹たち)アルト Schwertleite : Jane Bunnell
オルトリンデ(ワルキューレ、ブリュンヒルデの妹たち)ソプラノ Ortlinde : Wendy Bryn Harmer
ジークルンデ(ワルキューレ、ブリュンヒルデの妹たち)ソプラノ Siegrune : Leann Sandel-Pantaleo
グリムゲルデ(ワルキューレ、ブリュンヒルデの妹たち)アルト Grimgerde : Mary Ann McCormick
ロスヴァイセ(ワルキューレ、ブリュンヒルデの妹たち)アルト Rossweisse : Teresa S. Herold

昨シーズン、この「ワルキューレ」だけは公演されていて、それを観にいった時 には、ブリュンヒルデ役のリサ・ガスティーン Lisa Gasteen が一番の聞かせどころである「ホイトホー」の高音でものの見事に音をはずし、さすがに彼女も高音をその後はごまかすように出さず、ヴォータン演じるジェームス・モリスは最後の最後に足元が暗かったこともあるだろうが転んで尻もちというアクシデント付きだった。
今回は何のアクシデントなどもないと良いがと思っていたところ、ジークムント役のボッタが病気ということで、パンフレットへの差し込みにも間に合わず舞台上には説明する人が登場。昨年フレミングと共演したボッタの オテロ しか観ていなかったので今日を楽しみにしていたのだが。(因みに、昨シーズン中に、リンカーンセンターそばのカフェで他の歌手達と一緒にお茶?軽食?を取っている彼を見たが、やはり物凄い巨漢だった。)

代役として立ったのはゲイリー・リーマン Gary Lehman で、代役とは思えないぐらいの歌唱を披露。(全く関係ないのだが)ビジュアル面ではボッタとは全く違って足が長くて格好も良い。
一度ジークリンデの家で父からの剣を抜いて高らかに歌った後で、メイヤー扮するジークリンデと歌った時の途中で一瞬だけ歌詞が出て来ずに慌ててプロンプターの人に視線を送っていたようにも感じたが、終始頑張っていて、多くの拍手をもらっていた。また、レヴァインも彼の歌の出だしの時には「はい!ここ!」というように左手の人差し指で示してあげていた。
因みに彼は、2007-2008年シーズンの「トリスタンとイゾルデ」では、トリスタン役のベン・ヘップナーの降板に伴い、6回公演中2回を代役としてトリスタンを演じ、そのうち1回の公演時には、頭からプロンプターボックスに突っ込むアクシデントに見舞われるも、お医者さんの診断後にすぐに舞台に立ったというタフな人。

ブリュンヒルデ役のイレーネ・テオリン Irene Theorin の3幕目の「ホイトホー」の後の高音の表現は、一瞬歌舞伎の乱獅子を思わせるかのような首の振り付きで高音を出すが伸ばして出すのではなく、「えいやー!」と勢い良く出してプツンと切れるような印象だった。むしろ他の8姉妹のワルキューレが歌う方が自然な感じで好きだったが、この演目がメトデビューとなるテオリンもなかなか頑張っていた。

ジークリンデ役のワルトロード・メイヤー Waltraud Meier がやはり私としては好きだったが、一緒に行った宿六はテオリンの方が気に入っていた。

ヴォータン役のジェームス・モリス James Morris もとても良く、3幕目の娘とのやりとりなどの場面では、迫真の歌声&演技。昨シーズンに観た時は余程お疲れモードだったのかも。


今回面白かったのは、通常ラジオ放送などを同時に行っているが、インターミッション時のトークショーをオペラハウス内にある小ホールのリストホールで行い、1幕目と2幕目の間には公開録音を体験できたこと。
司会者の William Berger 氏の横には、今期 リゴレット でマントヴァ公爵を好演したジョゼフ・カレイヤ Joseph Calleja が司会を勤め、オペラに精通した3名がパネラーとなる。
3名とは、Connecticut Opera Association の芸術監督で初めてのアフリカ系アメリカ人のオペラのディレクターである Willie Anthony Waters 氏と、アーティストマネージメント Artist Management のプレジテントである Neil Funkhouser 氏、ピアニストの Brian Zeger 氏。
オペラを観る前にするべきことなどの質問などの後、カレイヤが出題しその3名がオペラのイントロ当てクイズなど各種質問にベルの早押で答えると言うクイズ形式。
一番良く答えていたのは、Neil Funkhouser 氏だったかと。
一方カレイヤも、若い頃に4~5回オーディションに出たが、15名ほどの審査員の前でわずか3分程度のアリアを歌うだけで自分を表現するのが大変だったというエピソードや、今回 125周年のガラ では彼は「ラ・ボエム」のロドルフォを演じたが、オーディションではないが、多くの歌手達がわずか一曲だけを歌うのでそれに似た経験だったというようなことを言っていた。

しかし、今回一番驚いたのは、我々の前に座っていたアメリカ人の少年。年齢は良くわからないが、とても小さく7~8歳ぐらいと思われ、おばあさんに連れられて来ていた。大人でも忍耐や気力の居る休憩含めて5時間(実際にはカーテンコールも含めると5時間半だった)の長丁場のこの演目。
オペラハウスが子供や背の小さな人の為に貸し出すクッションを2枚重ねにしてもそれでも未だ小さく、頭の3分の1も背もたれから出ないぐらいの小ささ。
最初こそ、初めてのオペラハウスでの鑑賞と見えてキョロキョロしていたものの、字幕のスイッチをいじろうとしたり手を動かそうとするだけでもおばあさんがさっとその手を抑えてじっとしているように指導。大事な部分と思われる時にはおばあさんがその字幕の文字を指さしてあげていた。
少年は、レヴァインの指揮ぶりを大人の頭の影から見ているなどし、終始とても静か。
退屈かと思われる2幕目などでも全く寝ているそぶりもなく、休憩中にはおばあさんが誘っても席に残ってパンフレット(プレイビル)の解説を読んでおり、周りの大人たちもその彼には非常に驚いていて、「オペラ、好き?」などと声をかけていた。
3幕目ともなると微動駄にせずに聴き入っていて、終演後は立って拍手。前列の大人がスタンディングオベーションをしたので前が見えなくなると、席の上に立って一生懸命に拍手。
私としてはそんな素晴らしい鑑賞をしていた少年に拍手を送りたいぐらいだった。
音楽一家だったのか全く不明だが、末は素晴らしい逸材になるやも知れないこの少年、今からサインをもらっておくべきだったかも。