世界遺産の富岡製糸場へ。3棟が国宝に、4棟が重要文化財に指定されている。


明治5年に官営工場として設立された世界最大級の製糸工場。
日本が開国した1850~60年頃、ヨーロッパで蚕の微粒子病が流行し、フランスやイタリアなどで蚕の8割が全滅し、絹が不足し非常に高価になっていた。それまで日本では手で製糸していたが、1867年パリ万博の時に徳川幕府が渋沢栄一も含んだ使節団を派遣し、フランス人指導者のポール・ブリュナを招いて、工場建設が始まり、明治5年に東置繭所が建築された。技術はフランスからだが、資金と施工は全て日本による。製糸場の立地場所として、長野、埼玉、群馬が候補地となったが、石炭と養蚕の素地がある群馬が選ばれた。
もともとの官営 → 三井家 → 実業家の原三渓 → 片倉工業へと移ったが、片倉工業が閉業後も、売らない、貸さない、としたおかげでこの姿を残すことが出来た。


明治5年に改暦が行われ、不定時法から定時法となった。不定時法とは、明け六つ、暮れ六つとしていただけで、冬の方が労働時間が短く、七曜制でもなかった。富岡製糸場での勤務体系は、始業時間、就業時間、休憩などきっちりと決められており、8時間勤務(太陽光の具合で稼働は平均7時間45分)で日曜はお休みだったが、それまで盆暮れ正月しかお休みがない日本に、日曜休みが取り入れられたのは、官立学校で明治7年から、官公庁で明治9年からだった為、それらよりも早い明治5年からと言うのは、とても先進的だった。

東置繭所 国宝 
明治5年(1872)建築。長さ104.4メートル、幅12.3メートル、高さ14.8メートル。
木骨煉瓦造。大工さんはメートル法を尺貫法に直して建てた。当時は年に一度しか繭が採れなかった為、一年分の繭を買い入れて貯蔵する必要があり、繭32トンを保管していた。中庭に抜けるこのアーチのキーストーンには、「明治五年」の刻字がある。
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長い煉瓦と短い煉瓦が交互にあるフランス積みで、当時の日本には煉瓦職人がいなかった為、瓦職人が煉瓦を焼き、煉瓦に瓦屋根と柱と梁を用いるという木骨煉瓦造となった。梁は筏に乗せて運び込まれ、当時はセメントがない為、漆喰を使った。
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西置繭所 国宝 
保存整備工事を6年かけ、2020年にオープンしたもので、ハウスインハウス構造。

繰糸所 国宝

一番大きな建物で、東西に140メートルの建物には、300人の工女が働いていた。繭から糸を取る所で、ひとつの繭から1300~1500メートルもの糸が採れた。現在展示されている機械は、明治時代のものではなく、昭和40年以降の日産製の自動繰糸機。屋根は越屋根と言われる二重になっていて、蒸気を抜いて換気の役割をしていた。
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150台の機械があるが、柱は一切なく、三角形の梁でのトラス構造で、2本の梁ははさみ梁構法、上部には換気口を設けて、快適な24度になるように。
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当時日本にはガラスはなく、ゆがんだ窓ガラスはフランス製のガラスと言われている。
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後年は日産製の機械でオートメーション化された為、300人から40人の工女で済むようになった。
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写真撮影が不可だったのだが、フランス式繰糸機による、繰糸のデモンストレーションも見られた。

当時は電気がなかった為に、動力は石炭による蒸気エンジンから。説明をして下さった方が、実際の生糸を触らせて下さったが、ノリが付いていて非常に硬い。繭から 0.02ミリの糸を採っていく。
明治42年には、生糸の輸出量が世界一位となり、高品質で海外からも優秀とされていた。当時の中国はアヘン戦争の為に産業が停滞し、世界の生糸の8割を日本が生産し、アメリカは南北戦争の為、フランスやイギリスに輸出していた。
近代化により、鬼瓦は太陽を模しているのだそう。
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首長館(ブリュナ家の館) 重要文化財 
明治6年(1873)建築。フランス人用の宿舎3棟のうちの1棟。320坪のコロニアル様式の建物に、ポール・ブリュナ家の4人家族で住んでいた。やはりそこはフランス人、地下室にワインセラーを備えていたが、赤ワインを飲んでいるフランス人を見て、生き血を飲んでいるとの噂が流れ、工女になる人が集まらず、初代所長の小高淳忠の娘が工女第一号になった。
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診療所 
工女達のためで、医療費は無料。創業当時工女は約300人いたが、衣食住が確保され、給与は高く、週に一度の休みも確保されていた。「片倉診療所」とあるが、片倉工業時代の診療所は、1987年まで使われていた。

寄宿舎 
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工場排水は隣接する川に流されていたが、川の鯉が栄養満点で太っていたとのこと。

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