ABT とロシアのマリンスキー劇場キーロフバレエのプリンシパルであるディアナ・ヴィシニョーワの公演へ行ってみた。
いつも観るコンサバな演目の ABT でのクラシカルな動きとは異なるコンテンポラリーの3幕。
3幕いずれも、今回の一連のヴィシニョーワの公演の為に振りつけられたとか。

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ACT ONE
PIERROT LUNAIRE 月に憑かれたピエロ
振付 : Alexei Ratmansky
音楽 : Arnold Schoenberg
Diana Vishneva, Igor Kolb, Mikhail Lobukhin, Alexander Sergeev
ヴィシニョーワと男性3名がそれぞれピエロに扮する。

「月に憑かれたピエロ」とは wikipediaより
仏語:Pierrot lunaire 原題どおり「ピエロ・リュネール」と記されることもある。作品21は、アーノルト・シェーンベルクが作曲した室内楽伴奏による連作歌曲。正式な名称は、《アルベール・ジローの『月に憑かれたピエロ』から21の詩(独語:Dreimal sieben Gedichte aus Albert Girauds 'Pierrot lunaire')》。すなわち、アルベール・ジローの仏語詩をオットー・エーリヒ・ハルトレーベンが独語訳したものから21点を選び出し、曲付けしたものである。

今回は、それに振付を行ったもので、オーケストラピットではマイクはつけているが、メゾソプラノ歌手の Elena Sommer が歌う。
ドイツ語が分かれば、あるいは、あらかじめジローの詩を知って予備知識を持って行けば良かったのだろうが、非常に難しい。
途中でピルエットを何回もこなすヴィシニョーワのスピードが物凄く速かったのが印象的。
ACT TWO
F.L.O.W. (For the Love of Women)
振付 : Moses Pendleton
1971年にアクロバティックなダンスカンパニーである PILOBOLUS を創設し、25年前にはダンスカンパニーの MOMIX を創設した振付師の Moses Pendleton による。本人も自分はバレエの振付師ではないと言っているだけに、奇想天外なものも。

○SWANS DREAM
 First Segment : "nanO" from album "ozOne", performed by "zerO One"
 Diana Vishneva, Maria Shevyakova, Ekaterina Ivannikova
 暗闇の中で、蛍光塗料を付けた肘から先の手と膝から下の足の部分だけを使って3人の女性が演じ、まるで影絵のように最後は白鳥3羽となる。手や足が黒い服をまくることで現われてきて、なかなか面白い発想だったが、パントマイムの一貫を観ているようで、ヴィシニョーワが演じる必要性は全く感じられなかった。

○GLASS AWAKENING
 Second Segment : "Space Weaver" from album "Silver Tree", performed by Lisa Gerrard
 Diana Vishneva (画像Ardani Artists Managementより)
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 奥から舞台手前に傾斜した鏡の上に肌色のコスチュームをまとったビシニョーワがほとんど立つことなく魅せる演技。鍛え上げられた身体が鏡に写り独特の雰囲気を出すが、顔を正面にして四肢をついた状態では、まるで蜘蛛か何かの生物のようだった。私はオーケストラ席の7列目からだったのでそういう印象を受けたが、高い位置から観ると、また鏡の効果が違ったかも知れない。

○WATER FLOWER
 Third Segment : "The Moola Mantra" performed by Deva Premal
 Diana Vishneva
 頭に大きなつばのついた帽子をかぶり、その360度に広がったつばの先に長いプラスチックの玉かビーズのような物が糸か何かに通されて垂れている。昔の日本で女性が大きな編み笠を深くかぶりその上に薄絹をかけていたような、そんな印象。その帽子の頭部分も糸のような物なので、その間から頭を出し、首につばが来るようにして、大きく彼女がスピンすると、そのつばに付いた小さい玉が広がってとても綺麗。彼女がスピンやゆっくりジャンプをする度にそれらの玉が上下や楕円形に広がる様は美しいが、彼女はそれをずっと同方向に延々とスピンしながら見せ続けていて、一体何回転し続けていたのか。
ACT THREE
THREE POINT TURN
振付 : Dwight Rhoden
音楽 : David Rozenblatt
Diana VIshneva, Desmond Richardson
Mikhail Lobukhin, Maria Shevyakova
Alexander Sergeev, Ekaterina Ivannikova
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3組の男女が踊るが、ビシニョーワの相手役の Desmond Richardson はもともと ALVIN AILEY 所属で、今はComplexions Contemporary Ballet コンプレッションズの創始者。同じく共同創始者の Dwight Rhoden がこの演目の振付を担当。
デズモンド・リチャードソンは、確かにバレエ畑のダンサーではないが、少なくとも私のような素人目でもわかってしまうような振りを間違えたのには驚いた。
一度は介添えする手は一本だけなのに見事に二本出してヴィシニョーワに二本目の無意味な方は無視されていたり、彼女がアラベスクのようにバランスを取る時に彼女の手を支えるべく彼が片手を出したは良いが、その手の出す高さを間違えて、その時はさすがにヴィシニョーワがぱっと目線を彼に向け、彼の手に自分の手を置くふりをして彼の手の位置を下げさせていた。
彼自身のソロはそれは力強く筋肉の躍動感があって良かったが、やはり「モチはモチヤ」というか、他のバレエの男性陣が、いかに上手にリフトをこなしているかなど、なめらかな動きがとても素晴らしいものだということを再認識させられた。デズモンド・リチャードソンは、昨年の STARS OF THE 21ST CENTURY INTERNATIONAL BALLET GALA 21世紀のスター達 で世界各国からのバレエ団代表のバレリーナ達と舞台に立っていて、ソロで踊っていて良いと思ったが、バレエ的な動きを女性とするには、いささか無理があったのかも。

どの演目もそうなのだが、特に最後の演目などはレオタードだけと非常に身体の線が現れ、筋肉の使い方や手の筋などが鮮明に見え、全く無駄のない鍛え上げられた身体は女性というよりアスリートを思わせる。他のバレリーナ二人もとても良い動きをしているのだが、ビシニョーワほど研ぎ澄まされた感じはない。以前に 間近で話した時 の柔和な顔立ちや案外すらっとしている姿とは全く別人に思われるぐらいの鍛え上げられた姿にひたすら感心した。