今期の開幕演目で、昨年10月にすでに観ていたが、3月に3公演だけ再度行われるので3月では最初の公演に行ってみた。
指揮はレヴァイン氏が予定されていたが、あいにく急遽変更となり、Joseph Colaneri 氏だった。
10月5日の公演 でもその日だけ Jens Georg Bechmann 氏が指揮をしていたので、今回はレヴァインをと思っていたのだが。指揮のせいなのか、歌手達が期待する早さよりもオーケストラが遅い印象を最初のうち受けてしまった。
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左から Stephen Costell, John Relyea, Mariusz Kwiecien, Natalie Dessay, 指揮者Joseph Colaneri, Giuseppe Filianoti

Music by Gaetano Donizetti
Liberetto by Salvadore Cammarano based on Sir Walter Scott's novel "The Bride of Lammermoor"
Conductor : Joseph Colaneri
Production : Mary Zimmerman

Normanno ノルマンノ(テノール)ランメルモールの隊長: Michael Myers
Lord Enrico Ashton エンリコ(バリトン)ルチアの兄: Mariusz Kwiecien
Raimondo ライモンド(バス)ランメルモールの牧師でルチアの家庭教師: John Relyea
Lucia ルチア(ソプラノ)エンリコの妹: Natalie Dessay
Alisa アリサ(メゾソプラノ)ルチアの侍女: Michaela Martens
Edgardo エドガルド(テノール)ルチアの恋人: Giuseppe Filianoti
Arturo アルトゥーロ(テノール)ルチアの政略結婚をさせられる相手: Stephen Costello

エドガルド役は、ジョルダーニに代わってフィリアノティが3月の公演は演じる。フィリアノティは一幕目では全く声が出ておらず、最初にナタリー・デッセイが美声を響かせ拍手喝采の後に歌った為、彼への拍手の量が少ないことが歴然だった。
しかし、2幕目で役者を感じさせた。
2幕目2場で、エドガルドが、ルチアが結婚証明書にサインをしたと知り、「震えているのか?混乱しているのか?君のサインなのか?答えてくれ!」と迫り、ルチアがそうだと答える部分は、解釈の違いからさまざまな歌い方があるとのこと。
10月8日の公演では、ジョルダーニ扮するエドガルドが強い口調で次々と質問を重ねるが最後の「答えてくれ A me, respondi」の部分は泣きそうな顔での懇願となっていた。
一方今回のフィリアノティは非常に怖い顔でルチアに詰問する勢い。「Ame, respondi」の最後の「ディー」の声などは歌声ではなく地声のような声。演技が良く、ここでは拍手。
声も尻上がりに良くなって来たが、3幕目最初にエンリコとの共演では同じように声を出している部分で、フィリアノティだけが息が続かなかった箇所があり、相対的に声量で劣っているかと。
3幕3場のテノール殺しのアリアでは、良く頑張っていたので、最後には「ブラボー」と声がかかり、拍手。

10月8日の公演では、3幕前で不調を訴えていきなり降板したマリウス・キーチェン Mariusz Kwiecien だったが、今回はとにかく良い。1幕1場のいきなりの聴かせどころから絶好調のように感じ、最後までとても良かった。

ライモンドの John Relyea は今回もとても安定していて存在感があって良いかと。

アルトゥーロ役はエドガルド役への試金石と言われており、実際10月の公演で好評だったステファン・コステロが、予定外だったが一公演だけエドガルド役を任されるなど大抜擢劇があった。今回はそのステファン・コステロが本来のアルトゥーロ役をするので、観客も彼の短いアリアは聞き耳をたてているかのように集中していた。しかし、とても綺麗なテノール声だが、声量がマリウス・キーチェンなどと比べると少なく感じてしまった。

1幕目最初に登場するランメルモールの隊長であるノルマンノ役のマイケル・マイヤーズ Michael Myers の声は全くと言って良いぐらい出ておらず、オーケストラの音に声がかき消され歌っているんだかどうなんだか?と言ったぐらい。後半は少しは声が出て来たが、いかがなものかと。

大道具が慣れていないのか、開場時間になっても地下のモニターには大道具が作業をしている様子が映っていたり、2度のインターミッションもいずれも予定よりも長くかかって、2回目のインターミッションでは観客から催促の拍手が起こりかけ、11時25分終演予定が11時45分になっていた。
結婚式の場面で大きな布を執事達が順にはずす場面では、布がひっかかってはずれず、すました顔をして執事役の人が椅子を脚立代わりにして乗ってはずしていた。
確か開幕時にも、その布が窓枠からはずれずアクシデントがあったと聞いたが。

1 HPより
色々と10月の公演よりも気になる点が多かったように感じるのは2回目なのでより細部を観ることが出来た為もあるだろうが、そんなこんなでも今回のオペラを観て良かったと観終えた後に思えたのは、やはり主役ナタリー・デッセイにつきるかと。
1幕、2幕、3幕とそれぞれナタリー・デッセイの見せ場では「ブラバー」と大勢から声がかかるが、その声がかき消されるぐらいの大拍手。
今日は本調子ではなかったかも知れず、17分の狂乱の場面では、2か所ほど声が出ていない部分があったが、それでも非常に良くまとめ、魅せていて、女優を感じさせる。
最後に執事達に担がれるところでは、目をかっと見開いたままの演技だったのが印象的。


余談だが、今回チケットを入手するにあたり、ラッシュチケット(通常100ドルのオーケストラリアの席を当日開場2時間前20ドルで150枚だけ売るチケット)を購入する為に早めに並んだこともあり、色々な人達と話すことになったのが面白かった。
並び仲間と言った感じで、前のオジサマからはブドウやピーナッツを回してもらったり。そのオジサマは車で来ていて、リンカーンセンターにパーキングすると駐車場代が高いからと、1時間が限度のコインパーキングを利用していたが、今回は車に行くのが遅れ、あわててタクシーを使って駐車した場所に行ったそうだが、渋滞にはまって1時間を超えてしまい、見事に150ドルの駐車違反チケットをもらってしまったととても落胆。100ドル価値の席を20ドルで買う為に150ドルやタクシー代を支払うはめになるとは。。。
はたまたメトのメキャニックの人が仕事帰りに我々を見かけ話しかけてきて、従業員割引のチケットは抽選で買えるという話や、大道具の収納場所の話や、どうしても観たい演目だと天井に設置されたライト脇から観られるという話などこぼれ話を聞かせてくれた。
前に並んでいたインドの女性は日本にご主人の関係で2度駐在し西麻布に住んでいたとか、後ろに並んでいたアメリカ人夫妻は北海道や韓国に米軍関係者として駐留していたとか、我々が日本人とわかると「COLD」はどう日本語で言うのか?と聞いてきて「寒い」という言葉を教えると、「寒いです」と言っているオジサマなど、案外みな日本に詳しかったりして面白かった。