毎年夏に、パブリックシアター主催で、セントラルパークの野外劇場で無料で行われるシェイクスピア・イン・ザ・パークとういイベントがある。ただ、シェイクスピアと言っても、シェイクスピア物のお芝居ばかりではない。
2年前には、メリル・ストリープとケビン・クラインによるお芝居の「肝っ玉母さんと子供達」が上演され、無料でも入場整理券が必要なので、その整理券争奪戦は非常に熾烈なものがあった。その様子は こちら
今年は、7月22日~8月31日まで1967年に初演されたミュージカル「ヘアー」のリバイバルが行われ、人気を博したこともあり、会期が延長され今週いっぱいの9月14日までとなった。

昨年までは、セントラルパークのデラコルテシアター Delacorte Theater と、パブリックシアターのあるラファイエットの二か所で整理券を配っていたが、今年はパブリックシアター前が工事で待つことが出来ないので、ネットでの抽選か、セントラルパークでの配布かの2種類の方法に変わった。
何度もネットでトライするも、籤運が全くないため、今週日曜で終演ということもあり、朝からセントラルパークに並びに行くことにした。
8時半に行った時点で我々の前に約170~200名程度。皆、心得たもので、折りたたみ椅子や毛布などを持参して午後1時からの配布までの時間を過ごしていた。

面白いのは、朝9時からは、トイレ以外は横入りの人を防ぐ為に一切列を離れてはならず、食べ物や飲み物が必要な人はケータリングの電話番号を教えます、と主催者のパブリックシアターのスタッフが説明に回ってくること。
NYでの食事と言えば、外食か、レンジでチンか、電話でケータリングを頼むという3種類しかないと揶揄されるぐらいにニューヨーカーはケータリングが大好き。お昼前ともなると、何人ものケータリングのデリバリーのお兄さんが「リンダ!ケータリング!」などと購入者の名前を叫びながら列の前を自転車で行ったり来たり。ケータリングが回ってくるとは聞いていたが、それは物好きな人が頼んだのが話題になっていたのかと思いきや主催者側推奨だったとは驚いた。
後で、その素晴らしい(?)システムをニューヨーカーに話したところ、さすがの彼女も大爆笑だった。
また、待っている我々をあてこんで、ミュージカルやビートルズのナンバーをフルートで演奏する人までもが登場。
1
2

ようやくチケット配布。折りたたみ椅子やスーツケースなどに色々なグッズを持ってきた人など、まるでキャンピングした人の列のよう。
1

出演:
Christopher Hanke (Claude)
Will Swenson (Berger)
Caren Lyn Manuel (Sheila)
Bryce Ryness (Woof)
Allison Case (Crissy)
Andrew Kober (Father/Margaret Mead)
Megan Lawrence (Mother)
Patina Renea Miller (Dionne)
Darius Nichols (Hud)
Kacie Sheik (Jeanie) ほか

1
(画像NYタイムズより)

主演のクロード役には、わずか23歳で 「春の目覚め スプリング・アウェイクニング Spring Awakening」で、トニー賞の主演男優賞にノミネートされたジョナサン・グロフ Jonathan Groff が配された。彼はこの「ヘアー」出演の為に、5月18日で「スプリング・アウェイクニング」を降板し、7月22日~8月17日までクロード役を務め、それ以降は代わりにクリストファー・ハンクとなったので、残念ながら今回は彼ジョナサン・グロフを観ることは出来なかった。

テーマは1960年代のNYに於けるヒッピー達。
麻薬やセックスに溺れ、しかしベトナム戦争に徴兵されるという現実に直面し、揺れ動く若い世代の青春群像と言ったところだが、いかんせんテーマ性が強い。一幕目最後の徴兵召集の紙を焼くシーンでは、男女十数名が一糸もまとわぬ姿になるなど、なかなか体当たり的で奇抜。
何度も観客席の方までやってきての芝居や歌など、観客を引き込んで行く手法も良い。そして楽曲のほとんどがソロではなく、25名弱での力いっぱいの合唱が迫力を産む。
60年代を実体験で生きた世代の50歳~60歳代の観客が多いこともあるが、一緒に歌詞を口ずさんでいる人が多かった。
ミュージカル「RENT」では、70年代のイーストヴィレッジが舞台となり、麻薬、貧困、同性愛、エイズなどがテーマで、公開された10年前にはセンセーショナルな作品となったと思っていたが、それよりもずっと以前の1967年にこのような奇抜なテーマが上演されていたことには驚かされた。
60年代後半は激動の時代だったと想像されるが、今も全く学ばない人間は戦争というものを起こし続けていて何ら変わっていないが、現在の若者はヒッピーとは言わないが反戦運動にしても、政治に関心が少な過ぎる世代になってしまっているように感じられ、その空気感や雰囲気を実体験し行動に起こせた世代がいささか羨ましくも思えた。

最後の楽曲 "Let the Sun Shine In" では、舞台に観客を上げて一緒に踊るというパフォーマンス。
この画像はNYタイムズのものだが、実際我々が行った日の公演では、舞台の床が見えないぐらい多くの観客が上がり、非常に盛り上がった。
1

後記 9月15日
今回の公演が非常に好評だったこともあり、2009年にブロードウェイで再公演されるとか。