「ドン・ジョバンニ」のタイトルロールを演じるのは、美系ソプラノ歌手のアナ・ネトレブコの子供の父親のイケメンバリトンということだけで興味を持ってしまった演目。
結構好きなスーザン・グラハムがエルヴィーラを演じる時に本当は来たかったのだが、日程の都合上今日となった。

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by Wolfgang Adameus Mozart
指揮:Lothr Koenings

ドン・ジョヴァンニ(バリトン)Don Giovanni 女たらしの貴族 : Erwin Schrott
レポレッロ(バス)Leporello ジョヴァンニの従者 : Ildebrando D'Arcangelo
ドンナ・アンナ(ソプラノ)Donna Anna 騎士長の娘でオッターヴィオの許嫁 : Tamar Iveri
騎士長(バス)The Commendatore アンナの父 : Kwangchul Youn
ドン・オッターヴィオ(テノール)Don Ottavio アンナの許婚 : Matthew Polenzani
ドンナ・エルヴィーラ(ソプラノ)Donna Elvira ジョヴァンニに誘惑され捨てられた女性 : Dorothea Roschmann
ツェルリーナ(イタリア語の発音ではヅェルリーナ)(ソプラノ)Zerlina 村娘でマゼットの新婦 : Isabel Leonard
マゼット(バス)Masetto 農夫、ツェルリーナの新郎 : Joshua Bloom

この演目は、昨シーズンのシティオペラで観て(その様子は こちら )、面白かった印象が残っていた。
一幕、二幕とも一時間以上と結構長めだが、シティオペラで初めて観た時は、その長さを感じなかったし、二度目となると通常は次の展開がわかっていて耳馴染んでいるのでより早く感じることが多々なのだが、どうも今日はそういかなかった。

タイトルロールのシュロットは、確かにイケメンバリトンの一人なのかも知れないし、他のシンガーよりも脂肪が少ないのかも知れないが、冒頭でアンナに迫っていて父親にばれてから上半身裸になる必要はないと思われた。(画像HPより)
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ポレンザーニ扮するオッターヴィオがとても良いかと。ピアニッシモできかせるアリアは会場中が咳払いなどもなくシーンとして聴き入っていて、シュロットになかった「ブラボー」がかかっていた。

レポレッロ役のダルカンジェロが非常にコミカルで良かった。シュロット扮するドン・ジョバンニと上着を交換してお互いになりすます場面では、いきなり雰囲気が変わるなど、演じ分けていた。

女性陣としては、未だ若いレナードを観るのを楽しみにしていたこともあったが、なかなか頑張っているかと。メゾソプラノとは思えない綺麗な高音だった。

アンナ役は、昨シーズン 皇帝ティートの慈悲 で観た人だったが、他の2名の女性陣の中では拍手が少なめな気がしたのは気のせいか。

今日はオーケストラ席ではなく、少し高い位置から観たこともあって、一幕目でフルートが聞かせる部分で音がはずれてしまった後は、フラウティストの人が左右の演奏者も心配そうに眺めている中、慌ててフルートの調子をみているのが見られた。

最後の地獄落ち前のシーンの前には、男性コーラスの人達がゾロゾロとオーケストラピットに入って歌っていたが、楽器の音などで自分の音がわからないのを防ぐ為に耳を抑えている人やら、大声を出す時のように口の横に両手をあてている人やら。しかし実際には、あまりこのコーラスの声が舞台上の時ほどは響いて来なかった。

非常に面白いなと思ったのは、今日の席は上階中央ブロックの中央に近いやや左側だったが、歌手の人達が舞台のギリギリ手前までやって来て、右端にポジションを取った時には、まるで我々の観客席の低いひさしの部分にでもマイクがあるのではないかと思えるぐらい、その歌手の声が響いて来ること。
何度か上階中央席に座った時は、オーケストラ席よりはずっと良い音だと実感したが、今日は歌手の立ち位置にもよるのだろうが、ここまで音が一人だけ突出して響いてくる場所があるとは知らなかった。

受け売りの備忘録 

・イタリアの喜劇オペラ・ブッファ 「コシ・ファン・トウッテ」「フィガロの結婚」など
 王侯貴族などのシリアスなオペラ・セリア 「皇帝ティートの慈悲」「イドメネオ」など
 音階に乗せないせりふがあり、現実離れしたドイツのジュングシュピール 「後宮からの誘拐」「魔笛」
 などと大別されるが、この「ドン・ジョバンニ」はオペラ・ブッファに属する。

・舞台設定が大航海時代であった17世紀のスペイン。若い男性が航海に出ていて、国に残った女性の比率が
 高かったという時代背景。

・スペイン語だと「ドン・ホアン」、英語だと「ドン・ファン」、フランス語だと「ドン・ジュアン」となり
 イタリア語だと「ドン・ジョバンニ」。いずれにしても、17世紀後半から有名な演劇における人物と
 なっている。実際にはモデルが実在し、冒険家のジョヴァンニ・ジャコモ・カサノヴァだったとか。そして
 カサノヴァ自身が、「ドン・ジョバンニ」のプラハでの初演時に観に来ていたらしい。

・ツエルリーナが第1幕9場でジョバンニと良い雰囲気になっているが、エルヴィーラが仲に割って入る。その後、
 第1幕の宴会シーンでも未だジョバンニはしつこくツエルリーナに言い寄っているので、ツエルリーナは唯一
 ジョバンニの手に落ちなかった女性。

・第1幕5場 関係を持った女性の名前を載せたカタログをエルヴィーラに見せるレポレッロが、女性の身分が
 高くなるにつれ旋律も2度ずつ上がり、大きな女性の時は音楽も歌声も大きく、小さな女性の時にはそれらも
 小さくなって表現される。
 カタログの歌の歌詞はカスティ台本、パイジェッロ作曲の「ヴェネツイアのテオドロ王」からの引用。

・第1幕13場 アンナはジョバンニと関係を持ったかどうかと諸説あるが・・・
 モーツアルト研究家のアインシュタイン説では、アンナは許婚のオッタヴィオだと思ってジョヴァンニと関係を
 持ったが、そうではなかったと知る。しかしそうとは言えないので「ジョヴァンニから身をよじって逃げた」
 とウソをつき、18世紀の観客は彼女の言葉の裏の真意を理解し、彼女の言葉通りに受け取ったオッタヴィオを
 悲喜劇的な効果を与えたと解説している。
 ほかの解説では、すでにアンナはジョバンニが夜這いに来ることがわかっており、待っていたという説。
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 なるほど、女好きのジョヴァンニはアンナには全く興味を示していない。
 最初にジョバンニに迫られている時に、彼女の方がジョバンニの服を脱がそうとしている演出だった。
 ジョヴァンニの死後も、アンナは許婚のオッタヴィオと結婚するのを1年延ばして父の喪に服すふり。

・第2幕9場では、変装がばれたレポレッロがト短調で命乞いをし、残る5人がレポレッロに驚くところでは
 変イ長調に転調、再びレポレッロが変ホ長調で歌いあう。それぞれの個性を引き立たせる為に転調を使用。

・第2幕10場のエルヴィラのアリアはウイーン版で追加されたもので、最初は純真な愛を貫き世間知らずな
 部分すら内包していたエルヴィラが、徐々に現実を直視してジョヴァンニに生き方を変えろとアドバイス
 するまでになる成長が見てとれる。

・第2幕13場で演奏される食事の場面では、すでにあった曲3曲からの引用。マーティン・イ・ソレル「奇妙な
 こと Una cosa rara」、サルティ「他人の献花で得をする Fra i deu litiganti」、そしてモーツアルト
 自身がすでに作って人気を博した「フィガロの結婚」1幕8場10曲の「もう飛びまわることが出来ない愛の
 蝶」が演奏される。

・最後に、生き返ったドン・ジョバンニが登場するという演出もあるとか。