2月27日に行われたドレスリハーサルに続き(その様子は こちら)、3日目の今日の公演を観に行った。
今期の新作のひとつで、ドレスリハーサルを観た時には非常に斬新な演出に感じられたのだが、初日には歌手達が登場したカーテンコールでは拍手があっても、初日恒例の演出家や振付家や衣装などの担当が歌手達と共にカーテンコールに登場した際にはブーイング。主演のナタリー・デッセイはブーイングする観衆に対して左手の人差し指を立ててダメダメというしぐさの後、演出家達に拍手を贈ったことでも話題になった。
(その様子を YouTube にアップした人がおられたので、ご覧になりたい方はこちら: http://www.youtube.com/watch?v=EM1YsAZnBAU&feature=related )
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by Vincenzo Bellini
Libretto by Felice Romani
指揮:Evelino Pido
ロドルフォ 伯爵でこの地の領主(バス)Count Rodolfo : Michele Pertusi
テレーザ 水車小屋の女主人(メゾソプラノ)Teresa : Jane Bunnell
アミーナ テレーザの養女(ソプラノ)Amina : Natalie Dessay
リーザ 旅館の女将(ソプラノ)Lisa : Jennifer Black
エルヴィーノ 金持ちの若い地主(テノール)Elvino : Juan Diego Florez

最初のうち、ナタリー・デッセイはあまり声が出ていないように感じられたが、徐々に本領発揮。
前回ドレスリハーサルで聴いた時には、最初のうちオーケストラのテンポが遅過ぎてフアン・ディエゴ・フローレスの方が先に歌っている時があったが、今日はそういう違和感はなくなっていた。
とにかくフローレスが今日は良かった。一度、本来なら息継ぎなしで歌うであろう部分が続かずに息継ぎをしていたので、観客もあれ?と言う感じがあったが、2幕目初めのフローレス扮するエルヴィーノが伯爵の声も村人達の忠告も無視して苦悩するアリアでは、本当に素晴らしい歌声に会場からは拍手が鳴りやまず。歌い終わって膝まづいて観客の拍手を一身に浴び、ある程度の拍手の間はじっとしていたが、そろそろ次の場面へと移るべくフローレスも立ち上がりかけたがそれでも拍手は鳴りやまず、再びその姿勢に戻って拍手が終わるのを待たざるを得ないぐらいの熱気だった。
ナタリー・デッセイも、呼応するかのように、その後のアリアを感情豊かに非常に丁寧に歌っていて、これまた拍手喝采。
しかし、一番おかしかったのは、最後の最後、彼女が舞台でスイスの衣装をつけて他の村人達と踊ってフィナーレ、という歌の出だしの所で、彼女がうっかりイントロ部分から歌い出してしまい、慌てて間違ったことに気づいて、あ!と両手で口の辺りを押さえるようなしぐさをして、指揮者に向かって、「止めて!」という意味かあるいは「待って!」というしぐさをしたが、オーケストラはそのまま演奏していたので、慌てて続くフレーズを声は小さめで軽く歌い、本来歌い出すべき部分に来た時に「Tien!」と言って歌い出した。彼女が実は本当に出だしを間違えたのではなく、それもオペラの台本のギャグのひとつと観客の大多数はとらえていたようで、特にざわつきもそれほどなかったように思えたが、全編イタリア語のオペラで、いきなりその部分だけナタリー・デッセイの母国語であるフランス語で「Tien!」(ほらここ!のような意味)と言うはずはなく。。。
全員でのカーテンコールの後、個別に出て来て受けるカーテンコールでは、彼女が出て来て大喝采だったが、去る時はばつが悪かったのか、まるでバレエの「白鳥の湖」の4羽の白鳥の踊りのように、足を交互にあげてスキップをするような格好で去って行き、これまた笑いをとっていた。
今日は、全国や世界各国にビデオを配信する LIVE in HD の収録の日ではなかったが、パルティエ正面席の真下にカメラが3台、上階の両脇にもカメラがそれぞれ設置されるなどの撮影をしていただけに、この最後の部分はどうなるのだろうかと思ってみたり。
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リハーサルと違うと一番に感じたのは、やはりフローレスの声。リハーサルでは相当抑えていたのではなかろうかと思えた。
夢遊病で伯爵の泊まっている宿の部屋にやってきたナタリー・デッセイ扮するアミーナを、上手にあしらう伯爵の動きなどは、表情はもとよりしぐさがコミカルになっていた。
一幕目最後に、合唱扮する劇団員がプロンプターから1人の女性を引き上げる場面では、リハーサル時は引き上げられた女性はそのまま他の劇団員と共に走り去って行っただけだたが、今日はしっかり振りがついていて、未だ破り捨てられていない楽譜を何人かから回収し、最後にその楽譜の束をまるで「やってられないわ!」と言う勢いで床にたたきつける、という芝居付きだった。
また、夢遊病で徘徊しながらやってくるアミーナが、黒板にリハーサル時には「AREA」と書いて自分のアリアが始まったが、今日はフローレス扮する恋人のエルヴィーノ「ELVINO」と書いていた。
舞台の一部がオーケストラピットの方にせり出してアミーナが歌う場面では、リハーサル時には、その真上の天井の一部が開いて、そこからも雪を表現する紙吹雪が捲かれて紙吹雪がオーケストラピットに落ちて行ったが、今回はその紙吹雪はなかった。

私としては、従来のオペラではなく新しい演出ということでのチャレンジとして面白いと思ったのだが、一緒に行った人いわく、NYの歌劇団という設定での劇中劇を演じる方法は、特にこの演目でなくても、他のオペラでも何でも出来るのではないか?と。

パンフレットをパサパサ音を立てたり、咳ばらいをしたり、鼻をかんだり、小声で話したりする人も結構いるものだが、二人のアリア部分を聴くべく、今日の観客は息をのんで待つことが非常に多く、良かったかと。