2008年の第62回トニー賞の4部門(ミュージカル賞、オリジナルスコア賞、振付賞、編曲賞)を受賞した作品。
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マンハッタンの北西のウエストハーレムとも言われる181丁目界隈をワシントンハイツ Washington Heights と言い、主にドミニカからの移民が多く住むラティーノエリアが舞台となっていて、イーストビレッジを舞台にしたミュージカルの RENT のさしずめラティーノ版と言った雰囲気。
この「In the Heights」を作った人が「RENT」のジョナサン・ラーソンにいくつかの点で似ているような気がする。リン=マニュエル・ミランダというラテン系の男性は現在未だ29歳で、わずか大学2年生の時にこのミュージカルの基盤である音楽と歌詞を作り(原作は別の人によるが)、2007年2月8日にオフブロードウェイで上演され、2008年3月9日にはブロードウェイに昇格し、6月にはトニー賞を獲得したという経緯。
ただジョナサン・ラーソンと違うのは、このリン=マニュエル・ミランダ氏は自らが主役のウスナビ役となって、ラップ調で司会進行役を演じたこと。
そしてユニバーサル・ピクチャーズが、昨年この映画化権を獲得し、舞台で主演を務めたリン=マニュアル・ミランダが、映画版でも主演を務めるのだとか。
ブロードウェイ開幕前日に急逝したジョナサン・ラーソンとは異なり、ますます活躍するもよう。

上のビデオに写っている男性がリン=マニュエル・ミランダ氏。
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音楽・歌詞 : Lin-Manuel Miranda
原作 : Quiara Alegria Hudes
Graffiti Pete : Michael Balderrama
Usnavi : Javier Munoz
Piragua Guy : Shaun Taylor-Corbett
Abeula Claudia : Elise Santora
Carla : Stephanie Klemons
Daniela : Andrea Burns
Kevin : Rick Negron
Camila : Priscilla Lopez
Sonny : Robin de Jesus
Benny : Joshua Henry
Vanessa : Janet Dacal
Nina : Mandy Gonzalez
Bolero Singer : Doreen Montalvo ほか

残念ながら、今日の公演ではすでにリン=マニュエル・ミランダ氏はもう出演しておらず、オリジナル時にアンサンブルとして参加し、ウスナビ役のアンダースタディだった Javier Munoz が演じていた。
もともとブロードウェイでのオリジナルキャストだったベニー役の Joshua Henry が3月3日~16日の期間限定で出演していたので、彼が観られたのは良かった。
ダニエラ役の Andrea Burns が良かったと思うが、主役のニーナ役でオフブロードウェイ上演時に出演していた Mandy Gonzalez はあまり好きになれず。
昨年夏にブライアントパークで行われた無料ミュージカルダイジェスト公演で登場した3名(その様子は こちら)は登場せず。
一昨年に観たオフブロードウェイの オルターボーイズ でラテン系の青年を演じていた Shaun Taylor-Corbett が、ピラグア(プエルトリコのかき氷)売りになっていたが、これが彼のブロードウェイデビューとのこと。

舞台上には181丁目の地下鉄青色の駅や赤色の駅のセットがあり、暑い夏にブラックアウトになって電気もなく冷房もない状態で消火栓を開けて涼み、Con Edison(NYの電気・ガスを一括で扱う会社)への文句や、夜中に店屋が襲われたり、とまるでワシントンハイツの一角をそのまま持って来たと言った感じ。
ダニエラが、自分が移民としてやってきた1940年代を回想するシーンや、ラティーノ街にいて唯一のラテン系でないアフリカ系のベニーはスペイン語がわからず、上司であり恋人ニーナの父親でもある男性から文化が違うと彼の存在が否定されたり(この時は観客からブーイングに近い声があがっていた)、稼業を廃業して看板をおろすとその下からは、ラテン系が移民してくる前まではアイリッシュが住んでいたことを示す緑色のクローバーマークがついたアイリッシュ独特の名前の看板がかかっていたりと、NYならではの光景が随所に表れている。
また、ラテンの音楽に乗せてアンサンブルが踊るダンスはなかなか良かった。

ドミニカの移民が大多数を占めるワシントンハイツだが、プエルトリコの旗もドミニカの旗と同様にかかっており、ダンスでも小道具として両方の旗が振られていたが、果たして両者はそれほど共存しているのかどうか、という素朴な疑問を感じた。中南米系の人達は米国が根本的に嫌いだが、経済的には米国にすがらざるを得ないジレンマをかかえており、独立よりも米国の自治領になることを選んだ(身売りしたとも言われている)プエルトリコの人達を嫌う風潮があるので。
また、小道具のひとつにバスケットボールが使われていたが、ラテン系のドミニカもプエルトリコも野球が非常に盛んで、どちらかというとスペイン語を話さないアフリカ系アメリカ人はバスケットをするイメージがあった為、いささか不思議に思えた。

全くの余談だが、以前にこのワシントンハイツに住んでいるドミニカ人から聞いたのだが、NYヤンキースとボストンレッドソックスによるワールドシリーズで、ボストンレッドソックスが優勝した時にはワシントンハイツじゅうが大騒ぎのお祭り騒ぎとなり、違法だが花火まで登場したとか。
何故NYヤンキースではなくボストンを応援するの?とびっくりして私が聞いたところ、当時ボストンレッドソックスには、マニー・ラミレス選手やデビッド・オルティーズ選手など、多くのドミニカ出身の選手が所属していたからで、NYヤンキース所属のアレックス・ロドリゲス選手(2006年のワールドベースボールクラシックには米国人として出場し、今年はドミニカ人として参加予定だったが結局手術のため不出場)は、ドミニカ人の血は引いていてもアメリカ生まれなのでドミニカ人としては認めない、と言っていたことを思い出した。