もともと、ローランド・ヴィラゾン Roland Virazon とアンジェラ・ゲオルギュー Angela Gheorghiu がこの演目に配されたが、メトのホームページのこの演目のトップはヴィラゾンのみと彼をウリにしていた。
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ところが、今期は ランメルモールのルチア にわずか2回出演しただけで後の公演をキャンセルしてしまったローランド・ヴィラゾン、またまたこの「愛の妙薬」もプレミアと2日目をキャンセル。

その為、彼の代役としてマッシモ・ジョルダーノ Massimo Giordano が配されたプレミアに行くことになった。
偶然3日前に街でヴィラゾンを見かけた時は(その画像は こちら)は普通に携帯電話で話しながら歩いてはいたが。。。

by Gaetano Donizetti's
Libretto by Felice Romani
指揮 : Maurizio Benini
アディーナ 富農の娘(ソプラノ)Adina : Angela Gheorghiu
ネモリーノ 貧しい農民でアディーナに想いを寄せる(テノール)Nemorino : Massimo Giordano
ベルコーレ 軍曹(バリトン)Sergeant Belcore : Franco Vassallo
ドゥルカマーラ博士 インチキ薬売り(バス)Doctor Dulcamara : Simone Alaimo
ジャンネッタ 村娘(ソプラノ)Giannetta : Ying Huang

昨年11月に ラ・トラビアータ のアルフレード役で初めてマッシモ・ジョルダーノを観たが、その時もオーケストラのテンポと彼とが速すぎたり遅すぎたりで合っていなかったように思えたのだが、今回も1幕目の最初のうちは一生懸命丁寧に歌おうとしているようでゆっくりになり、オーケストラが先行してしまっている印象。
一幕目で慣例的に歌われるというアルフレードのハイCはなかったような。。。
二幕目の有名なアルフレードのアリアである「人知れぬ涙 Una frutiva lagrima 」の最後、オーケストラなしで彼の歌や間合いを聴く部分では、さすがに会場中が咳ばらいひとつなく水をうったようにシーンとして聴き入っていた雰囲気が良かった。一幕目では全くブラボーなどと声がかからず力のない拍手だったが、この時だけは拍手喝采。

アンジェラ・ゲオルギュー Angela Gheorghiu は、さすがに二幕目のジョルダーノ扮するアルフレードのアリアに続くアリア以降は力が入っていて、それからは結構声が良く聞こえたが、それまでは声量が足りない印象を受けた。先日の 125周年ガラ ではドミンゴの相手役として頑張っていたが、彼女の演目は2007年に シモン・ボッカネグラ を観た時、男性陣の歌唱は記憶にあるが彼女の印象が薄かったことを思い出してしまった。

二幕目二場のアルフレード役の有名なアリアの前に、アディーナ役のゲオルギューとドゥルカマーラ役のシモーヌ・アレモ Simone Alaimo がデュエットした後、ゲオルギューが走って舞台右に去り、それを追うようにアレモが走って暗転という場面で、暗転してからだったが、アレモがものの見事にヘッドスライディングのように舞台上で転んでしまい、すでに舞台袖に走って入りかけていたゲオルギューもびっくりして立ち止まり未だ転んだままのアレモの方に向き直り少し戻って声をかけていたが、さすがに舞台に再び登場して手を貸して彼を起こすわけにもいかず。ようやくアレモが自力で起き上がって袖に消えたが、観衆もびっくり。後からアレモは普通に登場して歌っていたので、特に何事もなかったようではあるが。

ジャンネッタ役のソプラノのユン・ファン Ying Huang は綺麗な声ではあっても声量が足りないかと。同じアジア人ということであれば、見た目は似ているように思えるが、ルサルカ に出ていた韓国人ソプラノであるキャサリーン・キム Kathleen Kim の方がずっと良いような気がした。

今日は4人の友人達(みな女性)と観に行ったのだが、1幕後のインターミッションの時には、ゲオルギューの声の小ささの不評談。終演後は、ゲオルギューは2幕目の方が良かったこともあり、インターミッション時の感想より評価は良くなったのだが、やはり彼女のルックスについてばかり話していたような気がする。
もし彼女がこれだけの痩身で美貌も兼ね備えたソプラノでなかったならば、友人達の評も変わったかも?と言う点で皆、納得。
このネモリーノを今期 ランメルモールのルチアエフゲニー・オネーギンリゴレット に出演し、結構最近好きなピョートル・ベッチャーラが歌ったらどうなるのかなぁと勝手なことを思ってみたり。

3年前に1950年代のアメリカのダイナーに舞台を変えたシティオペラのこの演目は、ゲーリー・クーパーやグレス・ケリーの名前が歌詞に挿入されていたり、ドゥルカマーラを「田舎のロックフェラー」などと揶揄するなど、ジョークが織り交ぜられていて、面白かったことを思い出した。その様子は こちら

後述

結局、ヴィラゾンはこの演目全ての出演を降板。4月16日に予定されていたメトロポリタンハウスのショップでのサイン会も中止に。

ヴィラゾン降板で、マッシモ・ジョルダーノが急きょ代役として初日やラジオ放送日に立ったわけだが、この演目のドレスリハーサルが行われた日の前日にジョルダーノはNY入りをし、ドレスリハーサル時には全くこの演出での立ち居振る舞いがわからないので、動きを指導する人が舞台で付きっきりだったとか。


受け売りの備忘録

ドニゼッティがわずか2週間で書きあげ、ミラノでの初演は大成功に至った。

ドニゼッティはこの作品以降オペラブッファを作っておらず、事実上この作品がイタリアのオペラブッファの傑作の最後となると考えられている。
オペラブッファとは(大辞林より):
一八世紀初期、イタリアに起こった喜歌劇。軽快な音楽を主とし、同時代に題材をとった滑稽・風刺的内容をもつものが多い。「フィガロの結婚」「ドン=ジョバンニ」「セビリアの理髪師」などが有名。

一幕
当時はオーケストラがますメロディを奏で、その後に歌が続くのが普通だったが、一幕目のアディーナのアリアは、そうではない。

二幕一場
劇中劇では、アディーナ扮するニーナがドゥルカマーラ扮する富豪の議員の話だが、ニーナは年寄りよりも若い人が良いというストーリーだが、このオペラの本来の筋立てを暗示している。

最後にネモリーノ役のテノールがハイCを出すのが慣習とされている。

二幕二場
ネモリーノのアリア「人知れぬ涙 Una frutiva lagrima 」は有名で、テノールの中音から高音のレンジとなるので、ファルセットヴォイスのような歌い方をする人もいる。