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サンクトペテルブルクにあるエルミタージュ美術館は300万点とも言われる収蔵品を抱える世界3大美術館のひとつだが、そこから今回89点が来日した。女帝エカテリーナ2世(1729-1796)がドイツの美術品を収集したのが始まり。






1.16世紀 ルネサンス 人間の世紀

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ティツィアーノ・ヴェチェリオ  「祝福するキリスト」 1570年頃
全能を象徴する水晶珠を左手に持ち、祝福のために右手を上げているキリストの姿。フィレンツェ派と異なりヴェネチア派は、人間っぽく、しかも正面から描くことが定番だったのだが、横からのアングルにして動きを加えた。ダ・ヴィンチやミケランジェロなどは、ヴェネチア派は人間っぽく俗っぽいと評した。


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ロレンツォ・ロット 「エジプト逃避途上の休息と聖ユスティナ」 1529-1530年
キリストの誕生により、自らの王位が危うくなると信じたユダヤの王ヘロデが、キリスト殺害を命じ、その危険を察知したヨセフ、マリア、キリストの聖家族がエジプトへ逃れる場面に、迫害により剣で胸を貫いた6世紀の聖女ユスティナの物語が組み合わされている。
赤と青の衣装はマリアを表し、赤ちゃんからは光が発せられている。

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レオナルド・ダ・ヴィンチ派 「裸婦」 16世紀末
弟子作? 弟子の弟子作?
モナリザをヌードにしたらと言う作品は十数点あるが、そのうちの1点。輪郭を描かない手法であるスフマート(ぼかし技法)による。
当時はレオナルド・ダ・ヴィンチの新作と19世紀まで考えられていた。


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バルトロメオ・スケドーニ
「風景の中のクピド」

16世紀末-17世紀初
顔と左手が特に赤くて
可愛いキューピッドだった。

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ソフォニスバ・アングィソ-ラ
「若い女性の肖像(横顔)」

16世紀末
モデルは不明。持っている花は婚約を意味する。






2.17世紀 バロック 黄金の世紀 
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ペーテル・パウル・ルーベンス
「虹のある風景」

1632頃-1635
古代詩のオウィディウス「変身物語」に歌われた、人間と自然が穏やかに調和して暮らす幸福な黄金時代の有様。
一方で空にかかる虹は、その幸福がはかなく移ろいやすいものであることを暗示。



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ペーテル・パウル・ルーベンス
「ローマの慈愛(キモンとペロ)」
1612年頃
題材は、古代ローマの歴史家マクシムスの著にある伝説で、キモンは飢え死の刑をさせられて、キモンの娘が助けようとしている。
キリスト教的博愛を示しているが、ルネッサンスよりも大胆な動きとなっている。

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アンソニー・ヴァン・ダイク 「自画像」 1622-1623年
ロマンチックで優美なものが作風で、細い指先が特徴。
ルーベンスが画家の王であれば、ヴァン・ダイクは画家の王子と言われていた。ルーベンスの弟子だったが、師匠を追い越すことが出来ないのでイギリスに渡り、チャールズ1世の宮廷肖像画家となり、チャールズ1世の王妃の女官の人と結婚し、上流階級のひとりとなる。
当時は伸縮性がないので、服の間からスラッシュが見えている。
42歳で早世。

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ダニエル・セーヘルス&トマス・ウイレボルツ・ボスハールト
「花飾りに囲まれた幼子キリストと洗礼者ヨハネ」
 1650年代前半
当時は、花を描く画家、人物を描く画家と分かれており、共同で1枚の絵を描くことが多かった。
セーヘルスは修道士で花を描き、ボスハールトは薔薇などを描いた。
イエスの頭には花輪が乗っているのは、いばらの冠を示唆し、薔薇、あざみ、ひいらぎなど棘のある花が描かれている。

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ダーフィト・ライカールト(3世)
「農婦と猫」 1640年
スワドリングという方法で、
赤ちゃんを包むが、猫を包んでいる。
味覚を表す寓意像。

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レンブラント・ファン・レイン「老婦人の肖像」1654
かつてレンブラントの母親を描いたものとされていたが、確証なし。
晩年破産して不幸になり絵に凄みを増した頃の作品。
光と陰の表現は、シャルダンなどに影響を与えた。
手の甲が凄くリアルだった。

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ウイレム・クラースゾーン・ヘダ 「蟹のある食卓」
1648年
海洋貿易で財を成したオランダ人の食卓風景。
当時はやった中国・明の青い食器が使われている。
金属、布、ガラスの質感の違いが良い。





3.18世紀 ロココと新古典派 革命の世紀

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フランソワ・ブーシェ 「クピド(詩の寓意)」
1750年代末~1760年代初め
宮廷主席画家で、ルイ15世に気に入られていた。
ブーシェの裸婦を見て、ルノワールが感激して裸婦を描いた。

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ニコラ・ランクレ 「踊るカマルゴ嬢」
18世紀前半
カマルゴは、当時のバレリーナとは異なり、初めて鬘を止め、スカート丈を短く改革をしたバレリーナ。

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ジャン・ユベール 「ヴォルテールの朝」 1754-1775
フランスの哲学者・思想家であるヴォルテールが、
啓蒙専制君主であるフリードリッヒ大王に気に入られ、
宮廷に居た。エカテリーナとも文通をしていた。

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エリザベト・ルイーズ・
ヴィジェ・ルブラン 
「自画像」
 1800年
当代随一の女流画家として高い人気を博したが、とりわけ王妃マリー・アントワネットのお気に入りの画家として数多くの肖像を残している。
フランス革命後はヨーロッパ各地に亡命したが、
いずれの地でも歓待され、特にロシアには6年にわたり
滞在し多くの作品を残した。
首の包帯みたいなものは当時のファッション。

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クロード・ジェゼフ・ヴェルネ 
「パレルモ港の入り口、月夜」 1769年
オラース・ヴェルネの祖父。
月の光と焚火とのコントラスト。


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リチャード・ブロンプトン 「エカテリーナ2世の肖像」 1782年
ブロンプトンは、借金で投獄されるなどしていたが、エカテリーナが招へいした。エカテリーナが凄い人だったということが伝わって来ないのは画家の力量不足と言われる作品。
ドイツ人だったエカテリーナは、ロシアの皇太子と結婚し、夫を殺して
女帝になる。大帝と言われているのはピョートルと彼女だけ。
愛人300人(本当は20人とも言われるが)とも噂され、
「王冠を被った娼婦」と孫が言うぐらい。

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ライト・オブ・ダービー(本名ジョゼフ・ライト)
「外から見た加治屋の光景」
 1773年
エカテリーナ2世が直接画家から購入した。
新しい技術を駆使した製鉄の場面。科学技術を絵の主題にはならないと思われていたが、それを扱った新しさがある。神話や聖書や肖像だったが、今後は科学技術だと取り上げた作品。

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ジョシュア・レノルズ 「ウェヌスの帯を解くクピド」 1788年
ビーナスの腰ひもをつけた人はエロティックな力を
持つと言われていたことがベースにある。
モデルはエマ・ハート。数多くの紳士と浮名を流した彼女は、著名な画家たちのモデルやダンサーをやっていた下層階級だったが、ナポリ公使でポンペイの発掘にもたずさわった貴族ハミルトンと30歳以上の年の差婚をしてのし上がっていく。その後、ネルソン提督の愛人ともなる。

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ルイ・レオポール・ボワイー
「ビリヤード」
 1807年
紀元前からビリヤードは行われていたが、14世紀頃からビリヤードは流行り、女性も姥に子供をあずけてビリヤードに興じていた。モーツアルトも賭けビリヤードで浪費したのだそう。


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ピエール・ナルシス・ゲラン 「モルフェウスとイリス」 1811年
オウィディウスの「変身物語」の中の一編が主題になっており、
女神ヘラの命を受けてモルフェウスにある依頼を託しにきた
イリスが彼を目覚めさせるという場面を描いたもの。
新古典主義の特徴であるつるつるの肌。
虹の神イリスが描かれているのが珍しい。
モルフェレスはモルヒネの語源になった。
「アウロラとケファス」と対の作品となっている。

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オラース・ヴェルネ
「死の天使」
 1851年
死をテーマにしつつおどろおどろしくない。
右手の指は自分がこれから向かう天を指差している。
写実と幻想が入り混じったロマン主義の典型的作品。
ヴェルネの娘であるルイーズが31歳の若さで死んでおり、
彼自身がひざまづいていると言われている。
ヴェルネ家は3世代目の画家で、祖父は上述のクロード・
ジョゼフ・ヴェルネ。戦争画を得意とし、ナポレオンが彼の絵を
気に入っていた。


19世紀、20世紀の作品は その2 で。