村上隆と李禹煥の作品は<1>、草間彌生と宮島達夫の作品は<2>で書いたので、最後は奈良美智と杉本博司の作品を。

奈良美智
1980年代より、ドローイング、絵画、彫刻、写真、インスタレーションなど様々な作品を制作。
80年代から近年までのドローイング約20点など、多数の作品が出展されていた。
本人曰く、ちょっと絵がうまかったと言うだけで美大に入ったが、作家になろうと思っていたわけではないので、この展覧会では居心地が良くないと(笑) いつの間にか作家として見られているだけ。1988年29歳の時にドイツへ渡り勉強。美術史などアートの勉強はしたが馴染めなかった。すぐにアートに触れられるような環境にない青森生まれの奈良氏は、美術の中に入っていくことが昔の自分を捨て去ることのように思え、美術以前のもの、自分を創って来たもの、自分史を創れないか、と考えた。そして背景が単色で描きたいものだけを描くようになる。
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「無題」2011
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「HELP」2011
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「Crap」2003
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「地雷探知機」1993
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奈良氏所有のレコード・CD・おもちゃなどの多様なコレクション群。特にロックを中心とした音楽レコードやCDが多数。青森は弘前の出身で、米軍基地から流れる音楽に親しんでいたのだそう。「はじめて美術と直結したのは、レコードを買うようになってから。」「近くに美術館がなかったから、家の中の自分の部屋やストリートのポスター、映画の中に出てくる小物とかで自分は美術に接していたんだと思う。」とのこと。
ローリング・ストーンズやミック・ジャガーなど、色々なCDがあるが、見る人は自分の知っているミュージシャンを見つけてそれだけを見て、奈良はそのミュージシャンが好き、と思うが、知らないミュージシャンの音楽はどのようなものだろう?と思わない。それは作品にも言えると。
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一緒に制作などをした?子供たちからのお手紙なども展示されていた。
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「Voyages of the Moon(Resting Moon)/ Voyage of the Moon」2006
家を模した巨大なインスタレーションは、金沢21世紀美術館以外では2度目の展示。月に関係する音楽を流しており、壁を夜空の色に、そして裸電球が星を現す部屋にしている。自分は、強さの象徴の太陽に照らされる月が好きとのこと。北国の長い夜を照らす月が象徴となっている。
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「The Moon」2008
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家の中が覗けるようになっている。奈良氏の自分の脳内のイメージを表現しているそうで、内部は原美術館の「My Drawing Room」のよう。その様子は こちら
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面白いのは、作品に近づき過ぎないようにテープが足元に貼られているが、この家の周囲のテープには本人が絵もまじえつつ近づかないでと書いている(笑)
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「Miss Moonlight」2020 家と対応しているよう。目を閉じているので、他の作品よりも平安や安堵感や安らぎが感じられた。
東日本大震災時が転機となった。福島近くの茨城県に住んでおられ、実家の青森に帰る時には被災した場所を通っていかねばならない。見慣れた風景が変わっていくのを見ると、美術は何も出来ないと自分の中での美術が崩壊した。被災地で美術をやろうとしている人がいたが、自分の作品を創ろうとしている人が殆どで、美術とは何だろうと再度考えることに。他者と自分の美術との関係性を考えた時に、自分に戻ることしか出来ない、個としての自分を考えるようになり、社会への反骨精神がなくなっていき、描く表情が優しく包み込むようになったと。誰の為に描くのか?と言う問いの先にたどり着いた作品。
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「Lonely Moon / Voyage of the Moon」2008
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この月の方が、家の月と対峙しているように思えたが、実際セットになっているのだそう。
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「Kate」2008
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左「Stop the bomb」2016、右「No WAR!」2016
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「無題」2011
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「無題」2011
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「ハードボイルド・ハートラック」のためのドローイング
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「Ships and Planes」1991
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「Submarines in Girl」1992 ぱっと見て、お笑いタレントで YouTuber のフワちゃんを思い出したのは私だけ? (笑)
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この展覧会での奈良氏の感想:「自分の作品はいろんな層(レイヤー)の上に成り立っていて、表面だけが表出している。客観的に展示を見て、自分の展示はすごく大人しい感じがした。最初は(ここに展示するのは)場違いだと思っていたけど、自分が積み重ねてきたレイヤーは無駄になっていないと感じた。」


杉本博司
写真や現代アートのみならず、古美術、建築、造園、伝統芸能など、幅広い文化に精通している。1970年(22歳)に渡米、NYを拠点としている。

「シロクマ」1976
処女作にして、ニューヨーク近代美術館に所蔵された作品。片目で剥製のシロクマを見た時に、生きているように感じたことから、それを写真にしたいと考えた。杉本氏曰く「1974年にカリフォルニアからニューヨークに移住。そこでしたのは、ニューヨークの美術館を全部まわることでした。リストの最後にあった自然史博物館に行き、そこでシロクマの剥製に出会った。私には死んで剥製にされたシロクマが生きているように見えました。それは明らかに錯覚ですが、その錯覚をほかの人にもわかってもらうように写真にしました。生と死のはざまを」。死んでいるものを生きていると思えるのなら、生きていると言うことは何なのか?
小学校3年生の時に同級生の死に遇い、生きている事と死んでいる事の境目がわからなかった。現実世界の浮遊感に悩まされていたが、このシロクマに出会い、自分の病的なビジョンを写真に撮ることが出来れば、他の人にも見てもらえると。
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「Revolution」シリーズ
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「時間の庭のひとりごと」2020
初の映画作品。杉本氏が神奈川小田原市に設立した「江の浦測候所」(2017年開館)の四季折々の様子が納められている。かつてのミカン畑だった所で、構想10年・工事10年をかけて、庭園、建築、古美術、化石、写真、舞台芸術など、人生の集大成として杉本氏の世界観が表現されている。無声映画の手法で、合間合間に杉本氏による言葉が入る短編映像作品。最後にたどり着くのは海だった。
ダンサーも現れるのだが、田中泯や、パリオペラ座の現在は芸術監督をしているオーレリー・デュポンが登場したのには驚いた。33分とちょっと長め。
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杉本氏が収集したギベオン隕石(1838年発見)
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また、撮影不可だったのだが、それぞれ6名の作家達のヒストリーや、海外で過去70間に開催された日本の現代美術展50展を紹介するセクションなどもあった。


同時開催として、「MAM PROJECT 028」では、シオン SI ON と言うアーティストの作品が展示されていた。シオンは、韓国の大学卒業後、日本に留学して京都市立芸術大学で博士号を取得、ニューヨークで活動をし、現在はポーランドのクラクフを拠点としている。
この作品「審判の日」は、3トン以上もある衣服でできた巨大な波の中に、小型のチャペルや彫刻が設置し、「波が示唆するのは、大量消費が引き起こす破滅であり、止めることのできない資本主義社会の姿そのもの」とのこと。先進国で不要になった衣服が、経済支援として発展途上国に輸出されているが、途上国では安価で輸入されるそれらの為に地域経済が成り立たなくなるという問題が起こっており、ファストファッションによって量産された衣服が行き場を失っている。「処分に困って機械でプレスされた服が死体の山のようで、いずれは私達に還ってくるだろうマスプロダクションのリベンジ、世界の終わりの序章に見えた」とのこと。聖母マリアやイエス・キリスト像は、ポーランド東部のグチュフと言う村のヤンと言う85歳の男性が制作した彫刻。
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