パナソニック汐留美術館で開催されている「和巧絶佳展 令和時代の超工芸」を観に行った。
72年~87年生まれと30~40代の脂ののった元気な世代の作家達12名による作品が、日本の伝統文化の価値を問い直す「和」の美、手わざの極致に挑む「巧」の美、そして工芸素材の美の可能性を探る「絶佳」の美、に分類されて展示されている。

まずは「和」を。(解説文はHPより)

舘鼻則孝(たてはな のりたか)
「好きなものや欲しいものがあるなら自分で作りなさい」と人形作家の母から教えられて育ち、ファッションデザイナーを志して大学では染色を専攻。江戸時代のファッションリーダーであった花魁に関心を持つようになり、卒業制作で花魁の高下駄をモチーフにしたヒールレスシューズ Heel-less Shoes シリーズを制作。
赤や緑に染めた牛革にエンボス(模様を彫刻したロールを加熱しながら押しつけて、紙・布・皮革などに凹凸模様をつけること)を付け、そこに金彩を施したものが基本となり、赤や青のクリスタルガラスで表面を覆ったタイプなど。
「Baby Heel-less Shoes」  2018
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「Heel-less Shoes」 2014
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ヒールレスシューズは、米国歌手のレディー・ガガやアーティストのダフネ・ギネスが着用したことで世界的に有名になった。革に友禅染の技法で伝統的な文様を施し、最先端ファッションとした。
友禅染 ゆうぜんぞめ
江戸時代に現れた多彩な絵文様染、染織工芸。線状にした糊で白い布に模様の輪郭を描き、輪郭線の内側を染料で彩色し、その上を厚く伏せ糊で覆ってから刷毛で地染めを施し、最後に水洗いして糊を落として仕上げる。多彩で華麗な絵模様を描き出すことができる。
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「Floating World」2014 ヒールレスシューズの原点となった花魁の高下駄を再解釈した牛革製の下駄。金彩を施した表面全体には七宝文を配し、鼻緒と鈴は真鍮で作られている。
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「Homage to Taro Serirs: Heel-less Shoes / Shoes of Sun」 2016
多数の突起は触手をイメージして制作されており、作家曰く生命感を表しているとのこと。
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「Hairpin」2018 
花魁の簪をモチーフにした巨大な簪。プラチナ箔で描き出された雲は「天と地」「生と死」の境界を暗示しているのだそう。
「Camellia Fields」2017 
足元には、鋳造したブロンズにアクリルガッシュで彩色した真っ赤な椿の花が円形状に敷き詰められている。花の姿のまま地面に落下する椿は、潔い死という武士の死生観の象徴でもあり、鎌倉のお寺の庭で舘鼻氏が見た光景がこの作品の原点となっている。
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「Embossed Painting」2017
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「Descending Painting Series」2020  雲と雷は、生と死の境界線とのこと。
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花魁の高下駄や簪だけでなく、日本刀、木版画、香の文化など、日本の伝統文化を再解釈して現代の表現として再生し、過去と現在をつなぐことを課題としており、「日本の芸術は工芸品にある」と語っておられる。

桑田卓郎(くわた たくろう)
ファッションやサブカルチャーに興味を持ち、高校から大学にかけてはストリートダンスに熱中していた桑田氏。茶碗など焼いたものを友人達に見せても、「茶碗だね」としか反応してもらえず、ならばと独自の表現として梅華皮(かいらぎ)や石爆(いしはぜ)など伝統的な技法を独自にデフォルメし、器の概念を覆す表現をすることにしたと。
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梅華皮 かいらぎ
陶磁器にみられる粒状になった釉薬の縮れ。茶碗の高台などを荒く削り出したのちに釉を掛けると窯の中で釉が流下し土皺(どしゅう)の間に釉が溜まって、そこだけ釉が厚く掛かった状態になる。焼成後、素地と釉薬の収縮率の違いから激しく貫入が生じて梅華皮となる。

石爆 いしはぜ
土に含まれた石が焼成時にはじけて表面に露出する伝統的な技法。
「茶垸(ちゃわん)」2020 台座と茶碗が一体となることで、茶碗は本来の用途からさらに離れ、工芸からアートの領域になった作品。
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「茶垸」2015
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「茶垸」2015
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「黒化粧梅華皮志野垸」2012
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深堀隆介(ふかほり りゅうすけ)
金魚を描くきっかけは、深堀氏は「金魚すくい」と。2000年、ディスプレイ会社で働いていたがスランプに陥り、美術なんてやめてしまおうと思った時、7年前の学生時代に夏祭りの金魚すくいでもらってきた金魚が、20センチ以上に育って未だ部屋の水槽にいることに目をとめ、金魚の妖艶な魅力に魅かれて金魚を描くようになる。深堀氏自身たくさんの金魚を飼い、その観察に余念がない。透明樹脂の上にアクリル絵の具を筆を使って描き、更に透明樹脂を流し込み、2日ほど乾燥させる。そして又描いては流し込む、と言う方法を2002年に編み出す。描いては流し込むと言う作業を20回ほど繰り返すことで立体感が出る金魚の体の透明感も素晴らしく、まるで生きているかのような立体的な金魚。しかし、実は全て実在しないイメージの中の金魚だというのにも驚かされる。
アクリル絵具×透明樹脂
器の中に透明な樹脂を流し込み、その表面にアクリル絵具でモティーフを少しずつ部分的に描いていき、さらにその上から樹脂を重ねる、深堀の独創的な手法。その作業を繰り返すことにより、絵が重なり合い、リアルなモティーフが表現される。
「四つの桶」2009 奥左:「月光」、奥右:「雪丹」、手前左:「草影」、手前右:「和金」
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この桶の金魚達は、横から見ると細かったり斜めだったりと、やや平面的に見えないこともないが、金魚の糞まで描かれているのには笑ってしまう。
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が、後に制作された升の中の金魚達は、どの方向から見てもぷっくりとした体が立体的で違和感が全くない。
「金魚酒 命名 伽琳」2016
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「金魚酒 命名 長夢」2019
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「桜升 命名 淡紅」2017 特にこの金魚は気に入った。水面に浮いている桜の花弁のみならず、升の内側にくっついて貼り付いてしまった花弁や、花弁が落ちて雄しべなどだけの物まで描かれている細かさにはびっくり。
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「百舟」2018 丸い波紋や勢い良く泳ぐ金魚が作った波の様子まで。
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「巧」は その2 で。「絶佳」は その3 で。