東京都現代美術館で開催されている「オラファー・エリアソン展 ときに川は橋となる Olafur Eliasson Sometimes the river is the bridge」を見に行った。
オラファー・エリアソンと言えば、丁度我々がNYに居た2008年に、「The New York City Waterfalls」を発表し、楽しませてもらった。制作費は当時150万ドル(=約17億円)もかかったが、170万人が彼の滝の作品群を鑑賞、75億円の経済効果を生んだと言われている。その滝のお昼間の様子は こちら、夜景の様子は こちら

そんな彼の展覧会が日本であるのであれば、見に行かねばと。
左から:「あなたの移ろう氷河の形態学(過去)Your passing glacial morphoogy (past)」2019 
「メタンの問題 Methane matter」2019 
「あなたの移ろう氷河の形態学(未来)Your passing glacial morphology (future)」2019 
1万5000年~2万年前のアイスランドとグリーンランドからの氷河を持って来て、1キロほどの氷河を、平らなテーブルの上に置いた紙の上に置き、氷河が融けていく所に絵具をたらしたもの。規則性のある円などの形をドローイングで足してより確かな存在感を出すようにし、美術館に入る人に光が放たれるような特徴を持たせようとしたとのこと。
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「クリティカルゾーンの記憶(ドイツーポーランドーロシアー中国ー日本)no.1-12   Memories from the critical zone (Germany-Poland-Russia-China-Japan, nos. 1-12」2020
展覧会の為に作られた新作。今回の展覧会に出品した作品の多くは、二酸化炭素を多く排出する航空機での輸送ではなく、ベルリンから日本まで鉄道と船で運ばれた。電車の中に特別な装置を設置し、電車の振動で独特の線が描かれるしくみ。どうやったら環境を壊さずに作品を送れるかを考え、鉄道を使ったことから。地球そのものや鉄道がドローイングマシーンを作ったと。
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「太陽の中心への探査 The exploration of the centre of the sun」2017
硝子と鉄で造られている。中心に灯り、周りにも灯りがある。不規則な多面体は動かないのだが、中心の光源が動くことにより、床や壁や天井にその反射した光がゆっくり動く。
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屋外に置かれたソーラーパネルから、この太陽光のオブジェはエネルギーをもらっている。
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オラファー・エリアソン氏の父親はアイスランドの出身で、アーティストであり料理人でもあるエリアス・ヒョルリーフソン氏。両親は離婚してしまったが、夏にはアイスランドに居る父親に会いに行っており、父親から現実を自分の想像力で見てみると言う教育を受けた。

「氷の研究室 Ice Lab」
アイスランドには、昨年行ったので、とても懐かしい光景だった(旅行の様子は こちら
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「あなたに今起きていること、起きたこと、これから起きること  Your happening, has happened, will happen」2020
7つの光源から映し出される人の影が作品になる。それぞれの光は、黄色の光なら青の影、緑の光なら赤の影と言うように補色の影を生み出している。壁に近付くと色が濃く、小さくなる。人間が影を見ながら、影によって動かされている。光は物を見るだけでなく、色々なものをいざなってくれる。
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「サステナビリティの研究室  Sustainability research lab」
CO2を出さない方法で再利用したガラス素材、余った野菜くずで作った顔料、など。多分野の専門家がアートの研究開発に取り組む。
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「サンライト・グラフィティ  Sunlight graffiti」2012
太陽光で充電した携帯ライトを作り販売している。先進国の価格は50ドルとお高めだが、電気の通っていない後進国ではそのサポートで安い価格で販売し、電気のない所に光を供給すると言うプロジェクトで、会場ではその携帯ライトで壁に光のドローイングをすることが出来る。
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「人間を超えたレゾネーター  Beyond-human resonator」2019  
大きなガラスのリングによって分光した光が壁に同心円の絵画を描いている。灯台の光の仕組みが応用されている。単純な仕掛けによって、見る人に大きな驚きを与えるエリアソンの作品の特徴が表れているとのこと。
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「おそれてる? Who is afraid」2004 
たった3枚のガラス板が天井から吊されているだけなのだが、それに光を当てることで壁に他の色が映り、わずかな風でゆらいだり、早いスピードで壁を動いたり。ガラス板には、特定の波長の光を反射し、補色の光を透過させる特殊な加工が施されているのだそう。同じ大きさのシアン、マゼンタ、イエローの円が重なり合った瞬間にだけ壁に現れたりと、非常に面白い。
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「ときに川は橋となる  Somtimes the river is the bridge」2020
この展覧会の為に作られた作品。中央に水が張られた大きなシャーレがあり、12機のスポットライトで照らされている。水面が揺れると、頭上のスクリーンにはさまざまな物が映し出される。映し出される形はひとつとして同じではない。見えなかった時間が、水と波で見えると。見方を変えれば知覚も変化させられる、環境や気候に関しても同様で、見方や知覚を変えることで地球を見るようにと。
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「ビューティー  Beauty」1993 
自然現象を自らの手で再現したエリアソン初期の代表作。霧のような細かい水滴が天井から落ちていて、それに光が当たることで虹が現れている。見る角度によって虹が違うことから、共有はしているが個々に異なると言うことを意味しているのだとか。
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「溶ける氷河のシリーズ 1999/2019   The glacier melt series 1999/2019」2019
オラファー・エリアソン氏が20代からアイスランドの自然を撮影し続けた記録。1998年夏に、小型飛行機を借りて氷河を撮影。美しい景色を記録したいと撮っていたが、20年後に同じ場所に行くと氷河はなく、1年ごとに記録しておくべきだったと。
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「昼と夜の溶岩 Day and night lava」2018
これもまた、そのしくみが良くわからない。上下が逆に映る鏡なのだが、手前に吊された2色の岩の真正面に立つと、鏡は岩だけを映す。
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エリアソン氏の工房には建築や工学の専門家が120人もおり、面白い作品達が作られている。
そのインタビューで:
アートとのつながりを民主化したい。制作者と消費者との関係ではなく、アートはひとつの言語であり、観客は一緒に展覧会を作っている共同制作者。アートはプラットフォームのような場所で、人が集まり、異なる意見を言い合う。アート単体では解決にはならないが、物理的ではなく社会的な場所でつながれる。ひとりひとりが気付く、あなたが変われば世界が変わる。