隈研吾氏は、各地美術館:根津美術館、明治神宮ミュージアム、角川武蔵野ミュージアム、村井正誠記念美術館などを設計されているが、サントリー美術館もそのひとつ。
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館内の随所で床材にウイスキーの樽材を再生利用しているのだそう。

展示室は3階と4階の2層からなり、3階には天井高9.3mの吹き抜け空間がある。
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隣の展示室との間は可動壁で隔てられ、襖や障子のように開け閉めすることで、多目的な空間利用が可能になっている。
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反対側の巨大なガラス面には、2枚の格子をスライドさせて光を調節する「無双格子(むそうごうし)」が設置されているのだそう。ただ、展示のガラス面はどうしても反対側の光が映り込むなどしてしまうので、出来れば MOA美術館のように、低反射ガラスと黒漆喰を反対側に立てることでガラスの反射が一切ないようだったら尚嬉しかったかも:

3階にはミュージアムショップとカフェが一体化したshop×cafe(ショップバイカフェ)には、加賀麩の「不室屋」がある。
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外観は白磁のルーバー(縦格子)に覆われている。
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− 都市の中の「居間」としての美術館 −
隈研吾

都市の中の「居間」として、この美術館建築を構想した。背景には、都市の室内化という現象がある。通信と移動のテクノロジーが、かつて物と物との間に存在していたすべての距離を消滅させ、都市全体を一つの大きな家の「室内」へと変貌させつつある。その大きな家の中には廊下はたくさんあるし、食堂もたくさんあるが、ゆったりとくつろげる「居間」はない。時間がゆっくりと流れ、親しい人と人、人と物との間で、くつろいだ会話が成立するような「居間」は見つからない。サントリー美術館が東京というノイジーな都市の中で、そんな静かな「居間」となって欲しいという想いで、図面をひいた。
20世紀の人々が美術館に求めていたのは、大げさな「都市のモニュメント」であったが、21世紀の人々が求めるのは、安らげる「居間」である。そして実は、早くから「生活の中の美」をテーマとして活動してきたサントリー美術館ほど、「居間」に相応しい美術館はない。この美術館は、世界の新しい潮流の先端にあって、あるべき姿を示すだろう。

「居間」の建築は、大げさなこけおどしであってはならないと考えた。生活で慣れ親しんできた、人に優しい素材―例えば肌に優しい白磁、湿度を保つ桐、樽に使われるホワイトオーク―を用いて、この「居間」は構成されている。日本の伝統的な窓の意匠である「無双格子」にヒントを得た光の調整装置を公園の緑の前面に設けた。この装置が外の光と風景を和らげて、「居間」の室内へと運んでくる。日本人は、こんな装置をうまく使って、四季の流れ、時の流れを楽しんできた。

美しいアートと、優しい素材と、柔らかな光に包まれて、ゆっくりと時間が流れ出す。それは、アートと人間との間の新しい関係性を人々にじっくりと味わってもらうための場所となるであろう。
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